巡り愛
「その手、離してくれるかな?」
自分でもびっくりするくらい低く冷たい声が出た。
沸々と湧き上がってくる怒りに気が狂いそうになりながら、冷静さを失ったら負けなような気がして、僕はギリギリのところで自分を抑え込む。
けれど高梨は僕を睨んだままあいを離そうとしないから、いい加減、我慢も限界になる。
力づくで高梨からあいを引き上がそうと一歩、2人に近づきかけた僕を制するように高梨が声を発した。
「桐生さんでしたよね・・・アンタみたいな人に水瀬さんを幸せにできるんですか?」
「・・・は?」
いきなり投げかけられた言葉の意味が分からなくて、僕は怪訝に眉を寄せた。
そんな僕に高梨は感情の起伏のない声でさらに言葉を続けた。
「その見かけだと桐生さん、めちゃくちゃモテそうですよね。しかも医者だし。女に不自由してないでしょ、桐生さん。アンタみたいな人は水瀬さんには相応しくない」
「・・・それは君が決めることじゃない。それに僕はあい以外のその他大勢に興味はないから。君にどう思われていもいいけど、あいに相応しいかどうかを君に判断される覚えはないよ」
高梨を強い視線で見据えたまま、はっきりとそう言った僕に高梨は一瞬、表情を歪ませた。
その瞬間、あいを縛り付けていた高梨の腕の力が緩んだのか、あいがその隙をついて高梨から離れた。
「圭さんっ」
逃げるようにして僕のそばへ駆け寄ってきたあいを背中に隠す。
じっと無表情でそれを見ていた高梨は、何かを吐き出すように小さく息を吐いた。