巡り愛
「桐生さん、水瀬さんのことちゃんと好きなんですか?」
「好きだよ。あいは僕にとってたった一人特別な人だからね」
そう答えた僕に高梨は一瞬、息を呑んですぐに可笑しそうに笑い出した。
それを訝しげに見ている僕に、高梨はフンッと鼻で笑って、肩をすくめた。
「2人して同じ台詞で返すなんて、どんだけ想い合ってるんですか?なんか、バカバカしくなった」
乾いた笑い声を上げた高梨はそのまま入口に向かって歩き出した。
それを呆然と見送る僕らを、入口のドアに手をかけた高梨が振り返った。
「とりあえず諦めます。でもちょっとでも水瀬さんが悲しむようなことがあったら、速攻、攻めますからね」
「君の出番は今後もないよ」
ニヤッと笑って挑戦的な言葉を口にした高梨に、僕も負けずに応じる。
数秒、睨み合うように視線を交わして、高梨は溜息を吐いて勢いよく開けたドアから出て行った。
「・・・・・圭さん、あの・・ごめんな・・・」
高梨が出て行ったのを僕の背中越しに見ていたあいが小さな声で言いかけた言葉を遮って、僕はギュッと彼女を抱き締めた。
「圭さん・・・・・」
「アイツに抱き締められただけ?他に何もされなかった?」
「うん、あと頬を触られたくらいで何もなかったよ」
ギュウギュウに抱き締める僕を宥めるようにあいも僕の背中に腕を回して抱き締め返してくれる。
このあいの感触を一瞬でも僕以外の男が感じたのかと思うと、抑えていたはずの怒りがまたこみ上げてきた。