巡り愛


「・・・特に問題はなさそうだね。体調もいいみたいだし、よかったよ」


「はい、ありがとうございます」


一通り診察を終えて、矢野先生がにっこりと笑ってくれた。
それに私も笑顔で答えて、頷いた。


「それじゃあ、今日はここまでで。さ、休憩休憩」


「矢野先生、この後休憩時間なんですか?」


矢野先生は勢いをつけるようにデスクを軽く叩いて立ち上がった。
私もそれにつられて椅子から立ち上がる。
そして何の気なしに訊いた私の質問に、矢野先生が意味ありげに口角を上げた。


「そ、午前中の外来はあいちゃんで最後だ。ほら、もう昼過ぎてるだろ」


「あ、ホントだ」


診察室の壁にかかる時計に目を向けると、確かに針はそろそろ12時半を差そうしていた。


「あいちゃんの後に誰もいないから無駄話もできたしね。それに、病院(ここ)にあいちゃんが来たのに会えなかったって言うと、アイツ煩いし」


「え?」


「・・・桐生が外でイライラしながら待ってると思うよ」


「!?」


ニヤニヤと笑う矢野先生が私の後ろにあるドアを指さした。
驚いている私を見て、矢野先生はますます可笑しそうに笑った。


「あんまり待たせるとイライラし過ぎてアイツ禿げそうだから、そろそろ行く?」


冗談めかして笑う矢野先生に私は小さく噴き出しながら、笑顔で頷いた。



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