巡り愛
「矢野先生からも言われたんだけど。私と出逢う前の圭さんは今、私が知ってる圭さんとは全然違うって。最初はどういうことかわからなかったけど、北野さんの話を聞いて少しわかったの」
圭さんの目を見て笑顔のまま話す私を、圭さんは黙ってじっと見つめている。
私の言葉を少し不安そうに聞く圭さんを安心させたくて、私は病院でそうしたようにギュッと圭さんの手を握った。
「過去の圭さんのことを北野さんから聞いても、やっぱり最初はピンっと来なかったの。でもね、記憶の中にある“あの頃”の圭さんも今、私の前にいてくれる圭さんもいつもすごく優しくて、私を誰よりも想ってくれているのは、私が一番わかっているから。それが本当の圭さんだって私には思えるから。過去の圭さんがそうじゃなかったは、私が圭さんの隣りにいなかったせいなのかな・・・って、ちょっと自惚れが過ぎるけど・・・さっき、圭さんのために料理しながら思ったの」
少し恥ずかしくなって、はにかむように笑う私を、私が握った手を逆に引き寄せて、圭さんはその腕の中に閉じ込めるように抱き締めた。
甘い圭さんの香りを感じて、私の中にまた、幸せが広がる。
「自惚れじゃない。あいが僕の隣りにいてくれるから、僕は僕でいられるんだ」
抱き締める腕の力を強くして、圭さんは真剣な声でゆっくりと告げた。
「今までの僕はきっと、あいっていう一番大切なピースが抜け落ちてたんだ。嫉妬深い僕も独占欲の強い僕も、あいが好きで可愛くていつもあいのことで頭がいっぱいな僕も・・・今まで知らなかった自分だけど、これが本当の僕だって言える。キミがこうして僕と一緒にいてくれるから、そういう本当の僕になれたんだ」
穏やかに、でもとても真剣に語りかけてくれる圭さんの言葉に、私は涙が溢れた。