巡り愛
お互いの職場のお最寄駅である駅から二駅先が私の家の最寄駅。
圭さんの家の最寄駅は更にひとつ先だと知った。
圭さんは私と一緒に電車を降りて、本当に私の家の前まで送ってくれて。
二人で手を繋いで歩きながら、お互いのことを知るために他愛ない会話を交わしていた。
圭さんは27歳で。
今年の春大学を卒業した私よりも5つ年上だった。
東都大学附属病院の心臓外科の先生をしているそうで。
お医者様の知り合いなんていない私は、彼から聞く話はどれも新鮮で、なんだかとても大人でかっこいい・・・そんな風に思ってしまう。
彼も私のことを色々訊いてくれた。
私のことを知りたいと思ってもらえることが、こんなにも嬉しいことなんだと初めて知った。
圭さんのことをもっと知りたいと思う。
私のことももっと知ってほしいと思う。
それは“好き”って感情の表れなのかな?
独り暮らしする私のマンションの前まで来て、私はゆっくりと歩みを止めた。
圭さんもそれに合わせて、立ち止まる。
「・・・ここの3階なんです」
「そう・・・部屋番号訊いてもいい?」
立ち止まっても手はまだ繋いだまま。
圭さんに優しく見つめられて、私はやっぱり鼓動が少し速くなる。
「・・・307号室です」
見つめられた瞳から視線を外せずに、私は小さな声で答えた。
素直に答えた私に圭さんは嬉しそうに目を細める。
「寄っていきますか?」
初めて出逢った人を家に誘うなんて、普段の私にはあり得ないことなのに、今日はその言葉が自然と零れた。
でも言ってから、圭さんに変に思われたかもしれないと思って、焦ってしまう。
そんな私を見て、圭さんは小さくくすりと笑って、笑顔のまま静かに首を左右に振った。