巡り愛
「ううん、今日はここまでにしておくよ。いきなり家に上がりこんでがっついてるって思われるのも嫌だし・・・次の機会まで楽しみはおあずけにしておく」
意味ありげに片方の口角を上げて笑う圭さんはとても色っぽくて。
私は鼓動が大きく跳ね上がって、頬は真っ赤に染まる。
「あいは可愛すぎるね」
クスクスと吐息を零すように笑う圭さんが繋いでいた手を少し強引に引き寄せた。
「―――――っ!」
額に一瞬、柔らかな感触を感じると、チュッと小さな音を立てて離れた。
圭さんにキスされたんだとわかって、私はびっくりして息を呑んだ。
頬だけじゃなく、体中の体温が一気に上昇する。
びっくりしたまま見上げた圭さんも照れたようにほんのり赤い顔をしていた。
「ごめん。可愛すぎて我慢できなかった」
困ったように、照れたように笑う圭さんはとっても可愛い。
そんな圭さんの笑顔につられて、私も真っ赤な顔のまま小さく笑った。
「今夜・・・電話してもいいかな?」
手を引かれたままのとても近い距離で、見上げる私を微笑んで見つめる圭さんが囁くように訊いた。
「・・・・・はい」
私はうっとりとした気持ちで彼の瞳を見つめ返して、小さく頷いた。
さっき交換したお互いの携帯番号とアドレス。
ただ彼の番号とアドレスが追加されただけなのに、自分の携帯が少し特別に思えるなんて、なんだか自分でも可笑しいと思う。
でもそれも圭さんだからだ。
彼はもうすでに私の中で“特別”な人だから。
今夜の電話の約束をして、圭さんはそのまま駅とは反対方向へ帰って行った。
圭さんの家のある方向なのかな?
圭さんが角を曲がってその姿が見えなくなるまで、私はその場で見送っていた。
彼の後姿を見つめる心がとっても温かくて。
幸せで満たされているのを、実感しながら。