巡り愛
【side 圭】
あいのマンションから徒歩で自宅へ帰る道のりの間中、顔がにやけて仕方なかった。
僕の自宅までは20分くらいの距離で。
その間中、ずっと彼女のことを想っていたから、あっという間の時間だった。
夜で周りが暗くてよかった。
あいのことを考えて顔が緩む姿は、他人から見たらアヤシイに違いない。
すれ違う人もまばらだったし、暗くてそこまでわからなかったはず。
まあ、別に他人にどう思われても、一向に構わないんだけど。
突然の思いがけない出逢いの訪れに、心が浮足立っているのが自分でもわかる。
でも仕方ない。
だって、27年間ずっと、探し求めてきた人とやっと巡り会えたんだから。
しかもあいも僕のことを思い出してくれて。
まだまだ記憶は曖昧で、思い出していない記憶の方が断然多いだろうけど。
それでも“僕”という存在を、その心の中に思い出してくれたんだから、これ以上幸せなことがあるだろうか。
『これから二人で始めよう』
そう言った僕の言葉にもちゃんと頷いてくれたあいに例えようのない喜びが溢れて、出逢って数時間だというのに、もう僕の中は彼女でいっぱいだ。
いや・・・元々、僕の中は彼女だけしか存在していなかったんだけど。
実際に出逢って、目の前に彼女がいて。
手を伸ばせば触れられる距離で照れたり、笑ったりする可愛いあいにもうすっかり溺れてる自分を自覚していた。
彼女があんまり可愛いから、つい触れたくなって。
『可愛い』って言いたくなって。
我慢できずに、額にキスまでしてしまった。
本当は唇にキスしたかったけれど、さすがにそれは早急すぎるから。
『ゆっくりはじめよう』って言ったから。
今まで心の中で渦巻いていた想いが溢れて、歯止めが利かなくなりそうだけど。
ちゃんと少しずつ二人で“これから”を始めていければいい。
“あの頃”叶わなかった・・・二人での未来を。
今度こそ、一緒に叶えるためにも。