巡り愛
いつものように職場へ向かう。
改札を出て、昨日、圭さんと出逢った場所を通り過ぎる時、なんだか不思議で照れくさいような気持ちになった。
私の職場である大学の図書館は校内のちょうど真ん中に位置する建物だ。
地下1階、地上3階のそれは、図書館以外の機能はない。
私はいつものように正面のドアから中に入って、入り口の右奥にある受付カウンターから事務室へ入った。
「おはようございます」
すでに出勤していた私の先輩である中野さんに挨拶をして、タイムカードを押す。
時計は8時半。
9時からの業務開始だけど、いつも出勤時間はこれくらい。
30分間の間に今日の業務予定を確認する。
今日も予定表やパソコンを見ながら、1日の予定を確認していると、中野さんが書類を持って私の隣の席に座った。
そこが彼女の席だ。
「おはよう。・・・水瀬ちゃん、今日なんかいつもと違うね。いいとこでもあった?」
「え?」
私は一瞬、ドキンとしてパソコンに向けていた視線を上げて、中野さんを振り返った。
・・・朝の一瞬で変化がわかるくらい、私ってわかりやすいのだろうか。
そんなに、顔に出てる?
そんな風に動揺していると、中野さんが可笑しそうにケラケラと笑い出す。
「水瀬ちゃん、ホントわかりやすい。そんな風に固まられると肯定してるのと同じだよ」
「すいません・・・」
私はなぜか小さな声で彼女に謝る。
中野さんはそれを聞いて、更に声を上げて笑った。
「いいなぁ。そんな風に見た目でわかるくらいいいことがあるなんて。うらやましいぞ!」
笑顔のままそう言って、私の肩をポンポンと叩く。
その目が何があったのか訊きたそうに興味津々で、私は更に困ってしまった。
圭さんとのこと・・・なんて説明したらいいんだろう。
まだ自分でもよくわからない(思い出していない?)ことばかりなのに。
「おはよう」
目を輝かせて私の話を待っている中野さんの隣で、どうしようかと悩んでいると、事務室のドアを開けて、課長が出勤してきた。
「ちぇ。・・・水瀬ちゃん、また後で詳しく聞かせてね」
中野さんは残念そうにそう言うと、持っていた書類に視線を落として、仕事モードに切り替わった。
私は内心、ほっとしながら彼女と同じように、頭を仕事モードに切り替えた。