巡り愛
「え?」
急に強い口調で言った僕に矢野はびっくりして、瞬きをしながら言葉を止めた。
「ダメ。その子は矢野には譲れないから。・・・僕の、だから」
「え・・・ええぇぇぇっ!?」
『僕の』って言った響きがちょっと傲慢かなって思ったけど。
でももう、『僕の』だから。
出逢う前から『僕の』だと思っていたけど、今はちゃんと出逢えて、やっと現実に手に入れることができるんだから。
誰にも譲らない。
矢野の大げさな叫び声みたいな驚きに眉を顰めて、僕はそんな矢野をよそに真剣な顔を崩さずにじっと見ていた。
「『僕の』ってどういうことだよ?え?お前、彼女と知り合いなの?って言うか『僕の』ってことは付き合ってるのか??」
矢野が混乱したままの頭で一気に捲し立てるように質問してくる。
僕は矢野とは対照的に冷静に一つ一つに頷いた。
「あいは僕のだから、ダメ。あと、『可愛い』とか言うのも禁止だから」
「は?・・・お前、いつからそんなに独占欲強くなったの?」
矢野が更にびっくりした顔をして、目を丸くした。
僕はそれには答えずに、開いたままだったカルテに視線を落とした。
「・・・なんだ、せっかく可愛い子、見つけて喜んでたのになぁ・・・よりにもよって桐生の彼女って・・・あ~あ・・・」
無視してカルテを見ている僕の隣で矢野が大げさに落ち込んで見せる。
デスクの上に手を伸ばして倒れこんだ矢野は、ちらっと目線だけをこちらに向けて、恨めしそうに僕を見た。
でも、すぐにニヤリと笑って、僕の肩に手を載せてポンポンと軽く叩く。
「まあ、よかったじゃん。桐生って女に対して愛情持てない男なのかと思ってたけど、さっきのお前は今までと明らかに違ってたな。独占欲とか剥き出しにしてさ・・・なんか、お前のそういうとこ見れて、ちょっと安心した」
「・・・・・だから余計なお世話だよ」
僕はちらっとカルテから矢野に視線を向けて、無表情で言った。
友達にそういう風に安心されて、嬉しくないわけじゃなかったけど、それを言葉にするほど僕は素直じゃない。