巡り愛
圭さんは家にいても、病院にいても、電話出来る時は欠かさず毎晩この時間に電話をくれる。
仕事で電話出来そうにない時は、メールを送ってくれる。
そんなことが日常になりつつあることが、不思議だけどとても幸せだと感じていた。
仕事で忙しいかもしれないのに。
疲れているかもしれないのに。
それでもどうしても駄目な時以外は必ず電話をしてくれる圭さんに、申し訳ないと思いながらも、とても幸せだった。
一度、『お仕事大変でしょうから、毎晩じゃなくてもいいんですよ?』と私が言ったら。
『僕があいの声を聴きたいんだ。あいの声を聴くとほっとする。疲れとか一気に飛んじゃうから。あいが迷惑じゃなければ、毎晩電話したいんだけど』
と、ストレートに言われて私は真っ赤になった頬を抱え込むようにして顔を伏せた。
圭さんにこんな風に言われて、嬉しくないはずがない。
迷惑だなんて、ありっこない。
私が『・・・嬉しいです』って言うと、圭さんは少し赤く染めた顔に一面の笑顔の華を咲かせて『よかった』と笑った。
『傘持ってるから、大丈夫だよ』
圭さんから返された答えに、私は飛んでいた意識を取り戻して、今、聞こえてくる圭さんの声に気持ちを集中させる。
せっかく、忙しい時間を縫って電話してくれているんだから、ちゃんと集中しないと。
考えているのは、結局圭さんのことだけなんだけど。
「まだお仕事終わりそうにないんですか?」
お医者様はやっぱり忙しい仕事だ。
圭さんと出逢って1週間と少し。
たったそれだけの時間だけど、そのことは私にも十分理解できた。
圭さんが仕事に対して、とても真面目に向き合っている姿はこの短期間でもしっかり伝わっていた。
それはとても素敵なことだし、尊敬に値すると思うけど、やっぱりあんまり無理してほしくないとも思う。
そんな気持ちが声に含まれていたのか、圭さんの小さな苦笑いが電話越しに耳に届いた。
『もうすぐ終わるよ。心配してくれて、ありがとう』
穏やかな声のトーンに、やっぱり私の心臓はぎゅっと甘く掴まれる。
圭さんの何気ない一言一言に、『好き』って気持ちが膨らんでいた。