巡り愛

その日は、午前中の外来担当ではなかったから、色々溜まっている仕事を片付けようと考えながら、心臓外科の部屋に向かっていた。


いつもは朝の忙しい時間だから、バタバタとみんな動き回っているのに、それぞれの科の部屋のあるフロアの一角になぜか人だかりができていて。
変だな・・・と思いながらも、僕はそのまま、心臓外科の部屋のドアを開けようとしていた。


そんな僕の背中に、思いがけない人の声がかけられて、僕は一瞬、ドアノブを回していた手を止めて、声のする方を振り返った。


「圭っ、久しぶり!!」


人垣の中心にいたその人は、集まる人の間から顔を覗かせて、僕に向かって笑顔で手を振っている。
僕はその顔を見て驚いて、一瞬、眉を寄せてしまった。


「・・・・・北野・・・なんで」


僕を見つけて、華やかな笑顔で手を振っていたのは、僕の大学の同期で、この病院で一緒に研修医をした元同僚。


北野麻子。


僕があいに出逢う前。


最後に付き合った人だった。



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