巡り愛
「元気だった?」
そう言って、僕の前に立つ北野は相変わらず自信に満ち溢れたような笑みを浮かべている。
ハキハキとした性格で、明るいし男女ともに好かれるタイプ。
それにその容姿は他の誰かが“超絶美人”と称していたのを聞いたことがある。
客観的に見て、確かに綺麗だと思う。
僕にとっては別にどうでもいいポイントなんだけど。
「圭?」
すぐに返事を返さない僕に北野が不思議そうに首を傾げる。
僕は北野に聞こえないくらいに小さく溜息を吐いて、軽く微笑んで答えた。
「久しぶりだね。今日はどうしたの?」
こんな朝の早い時間から。
しかも北野だって、ここではない別の病院で医師をしているのに。
そんな僕の内心を読み取ったのか、北野は薄い笑みを浮かべて、僕を見た。
「ちょっと休暇を取ったの。それで久しぶりにここに来たくなって。・・・圭の顔が見たくなってね」
上目づかいに微笑む北野に、他の男はきっとドキッとするんだろうな。
でも僕はまったく動じない。
逆に更に心が冷めるような気がしながら、無表情で北野を見返す。
「そう。悪いけど、僕、仕事が溜まっているから。それに他の人達も忙しいと思うよ」
口調すら、そっけなく冷たい。
矢野が聞いたら、また呆れられそうだ。
「うん、そうだね。ごめんね、こんな時間に急に来て」
僕の言葉に一瞬、傷ついたような顔をした北野は苦々しい笑みを浮かべた。
そんな北野を見ても、心が全く揺さぶられないから、僕も大概だ。
「それじゃあ・・・」
「あ、あの、圭っ」
僕がそのまま、目の前のドアを開けて中に入ろうとすると、北野がまだ何か言いたそうに声を掛けてきた。
僕はもう一つ、溜息を吐くと、仕方なく北野に視線を向けた。
北野はそんな僕をじっと見つめて、少し訊き難そうに小さな声で訊ねてきた。
「圭、携帯変えたの?」
「は?携帯?・・・ああ、ずいぶん前に変えたけど?」
急に聞かれたことの意味がよくわからなくて、僕は訝しい表情を北野に向けた。
北野は顔を曇らせたけれど、僕から視線は外さない。
「どうして新しい番号とアドレス、教えてくれなかったの?」
北野のその言葉に、僕は『ああ・・・』と思った。
北野と別れた後で、たまたま携帯を新しくしたけれど、確かに北野にはそれを連絡していなかった。