巡り愛
「必要ないと思ったからだけど・・・どうして?」
僕は北野の言いたいことがなんとなくわかっていたけれど、あえて口にせずに、そんな冷たい言い方をした。
それに北野は悲しそうに眉を寄せて、泣きそうな顔をする。
「どうしてって・・・私達・・・友達でしょ?」
『友達』と言った北野の言葉が小さく消える。
「ああ・・・そうだね。悪かったね」
今にも泣きだしそうな北野の顔を見ながら、心は冷める一方だけど。
それでもそれ以上、突き放す気にもなれずに僕は軽く頭を下げた。
もう恋人として付き合ってもいない友人の一人だった北野。
別れてから、あまり接点もなかったし、携帯を変えたことを言うタイミングもなかったから、わざわざこちらから連絡しなかったんだけど。
今になって、それを言われるとは思わなかった。
『友達』と言ったのに、それに北野自身が傷ついて見える。
北野はまだ僕に何らかの気持ちがあるのだろうか・・・
かなりな自惚れだと思うけど、たぶん間違っていない気がする。
それは今の僕にとって。
あいという“本物”の存在がある僕にとっては、かなり気の滅入ることだった。
「あの、今からでも教え・・・・・」
「桐生、何してんの?打ち合わせの時間だろ?」
北野が必至な目をして僕に言った言葉を、後ろから突然聞こえてきた矢野の声が遮った。
「矢野・・・」
「矢野君・・・」
北野と僕が声のした方を振り返ると、矢野が無表情な顔で僕達を見ていた。
そして、そのまま僕の前のドアを開けて、矢野が僕を中へ促すようにする。
僕は内心ホッとしながら、矢野の開けたドアの中に身を進めた。
「あ、圭っ!」
北野が慌てたように声を上げたけれど、矢野がまたそれを制止した。
「悪いけど、仕事の時間だから」
そう言って、まだ必死な顔をする北野を残して、矢野はドアを閉めた。