巡り愛
「お前、何やってんの?」


「え?」


矢野がイライラしたような声でそう言うと、僕の隣の席にドンと音を立てて座った。
矢野の言っている意味がよくわからなくて、僕は鞄を机の上に置きながら機嫌の悪そうな矢野に視線を向ける。
そんな僕を睨みつけるような顔をして、矢野が大げさな溜息を吐いた。


「冷たくあしらうなら、最後までやり通せよ。お前、北野にほだされかけてただろ」


「そんなことないよ」


僕が誤魔化すように乾いた笑いを浮かべると、矢野が睨む視線を強くして『バカ』と言った。


「北野が傷ついた顔したから、携帯、教えようとか思ってただろ?」


「え・・・・・」


矢野にはバレバレだったらしい。
確かに、面倒だなと思いつつも、あんな顔をされて『友達だから』と言われれば、教えることを拒否するのは躊躇われていた。
だからあのまま、北野に『教えて』とはっきり言われれば、教えてしまっていただろう。


矢野はそれを見て、助け船を出してくれたってことか。


でも『友達』としてなら、そこまで拒否するのもおかしいように思うんだけど。


「お前、まさか『友達』っていう北野の言葉を鵜呑みにしてないだろうな?あの態度を見れば、誰だってまだアイツがお前に気があることくらいわかるぞ」


「それは・・・僕も気づいてたけど。『友達』って言うのも嘘じゃないし・・・」


「ホント、お前はバカだな。せっかく冷たくあしらってたんだから、そんなところで意味のない優しさなんて持たなくていいんだよ。余計にややこしくなるだろうが」


「ごめん・・・」


僕は苛立った矢野の言葉に、小さく頷いた。


確かに、変に気遣って、期待を持たれても困る。
今の僕の感情は、北野には失礼だけど、僕の言葉に傷ついた彼女への同情心だけだったから。


意味のない優しさは、逆に相手を傷つける。


それは何度も僕が過去に犯した過ち。
わかっていたから、今頃、突然現れた北野にも冷たくして見せたのに。
結局、それを仕切れない僕は、全く進歩がないらしい。




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