巡り愛
「だからさ・・・あんまり振り回されるなよ。桐生は他人に対して、どこか冷めたところがあるけど、基本は優しいから。弱ってる相手を無下にするとかできないだろ」
「僕、優しくなんてないよ」
黙っていた僕を矢野は真剣な表情のまま、じっと視線を逸らさずにそう言った。
その言葉に僕は少し自嘲気味な笑みが浮かぶ。
僕は優しいわけじゃない。
ただ、狡いだけなんだと思う。
「いや、優しいよ。冷めた態度を取ってるくせに、結局は手を差し伸べるだろ。まあ、ただのお人よしっていうか、バカだって思うことも多いけど」
「バカって、酷いな」
矢野の言葉に僕は苦笑いを返すと、矢野はやっぱり真面目な顔でそんな僕に眉を寄せて溜息を吐いた。
「バカだろ。最終的にはいつも損な役回りしてるのは、誰だよ」
「自分勝手な僕が悪いからね・・・・・」
「はぁ~、ホント、バカ。別に俺はお前がバカだっていいけどね。でも・・・今は“本命”がいるんだろ?だったら、過去の女になんか振り回されるな」
「・・・・・・・」
バカを連呼する矢野に苦笑していた僕も、矢野の“本命”って言葉にぴたりと表情が止まる。
真顔で矢野に視線を向けると、矢野はさっきまでの真面目な顔を崩して、ニヤリと意味ありげに笑った。
「あいちゃん・・・だっけ?彼女はお前にとって特別なんだろ?お前を180度変えるくらいだもんな。北野になんて構ってる暇はないんじゃないの?」
ニヤケながらもはっきり言う矢野を僕は表情を変えずにじっと見ていた。
「・・・そうだね。今は他の誰かのことなんてどうでもいい。やっと見つけた“本物”がいるからね」
僕はそう言うと口角を上げた。
矢野はそんな僕に可笑しそうに声を上げて笑った。
「お前にそこまで言わせるあいちゃんって、ホント何者?かなり興味あるんだけど」
「矢野、気安く名前呼ぶの禁止だって言っただろ。それにあいに興味持つのもダメだから」
「はぁ?・・・お前、どんだけ独占欲出してんだよ」
そう嫌そうに眉を寄せて、矢野は大げさに首を振って呆れた。