巡り愛

僕は北野を抱えるようにして、さっき歩いてきた暗い道を急いで病院まで戻った。
この明らかにおかしい北野の様子に、冷たい嫌な汗が流れた。


「桐生先生っ!?」


ドンッと勢いよく開けた『救急外来』の扉。
その勢いに中にいた当直の看護師達が一斉に僕達の方を振り返った。


そして、僕の腕の中にいる北野を見て、みんな驚いて息を呑む。


「当直のドクターを呼んで!空いてるベッドは?」


強い口調でそう言う僕の言葉に、動きを止めていた看護師達が慌てて動き出した。


「桐生先生、ここにお願いしますっ」


看護師に促されて、僕は北野を抱えて空いているベッドに彼女を寝かせる。
目を閉じて意識のない北野に向かって、声を掛けるけれど、北野の反応はない。


キリキリと胸の奥が痛んだ。



「桐生っ!どうしたって!?」


バタバタと慌てた様子で救急治療室に入ってきた当直の矢野に、僕は場所を代わるようにベッドから一歩下がった。


「北野・・・・・おいおい・・・」


矢野は北野の顔を覗くなり、眉に深い皺を刻んで低い声で呟いた。


それから、意識のない北野の診察を開始する。
体の至るところを観察して、外傷がないか、北野に何が起こったのか原因を探っていく。


「胃洗浄の準備!」


一通り、確認し終わった矢野が大きな声で看護師に指示を出した。


その矢野の言葉を聞いて、予想していた通りの診断に、僕は大きな溜息を零した。


「・・・クスリ、飲んだな」


「ああ・・・アルコールも併用してるし・・・・・そういうことだよね」


隣に立つ矢野から視線を逸らして、ガンガンと痛みの走るこめかみを押さえながら、僕は胃洗浄の準備をされている北野を見た。



・・・・・ここまで北野を追い込んだのは、僕なのか。



「それと一緒に、点滴の準備もして!」


矢野はそれ以上、僕には何も言わずに、治療の指示を看護師達にしていく。
僕はその様子を目で追いながら、ただ、胸を襲うキリキリした痛みを感じていた。



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