巡り愛
「桐生・・・」
救急治療室の扉の前にある、長椅子に座っていた僕に、扉の中から出てきた矢野が神妙な面持ちで声を掛けた。
僕の隣に腰を下ろして、矢野は背もたれに体を預けるように座った。
「命に別状はない。服用した量も致死量まで達していなかったしな」
「そう・・・・・」
僕はその言葉にホッとしながらも、顔を上げることができなかった。
「何があったんだ?」
矢野が静かに訊いてきたその言葉に、僕は図書館の前でのことを話した。
「・・・・・お前の気を引きたかったってことか。アイツだって医者の端くれだ。何をどれだけ飲めばどういう状態になるか、わかってる。その上でしたってことは、そういうことだよな」
「そうだね・・・・・」
北野もれっきとした医師だ。
薬の知識だってしっかりある。
矢野の言う通りどういうことになるかわかっていて、量も見定めて服用したんだろう。
それは僕にもわかっている。
北野には関われないと言った僕の気を引くために出た行動だろうということも。
「お前がそんなに自分を責めるようなことじゃない。たとえ端くれでも、北野は医者なんだ。その立場でこういうことをしたんだ。許されないのは北野の方だ」
「・・・・・・・・」
矢野の言うことは正論だ。
たとえ未遂に終わる量だったとしても、医師という立場で決してやってはいけないことだと僕も思う。
でも・・・・・
そこまでさせてしまったのは、僕のせいなんじゃないか。
原因は定かではないけれど、北野は確かに精神的に弱っていた。
それをわかっていて、拒絶した僕のせいで、北野はこんなことまでしたんだ。