巡り愛
「桐生、北野がやったことを自分のせいだと言うなら、お前は北野を受け入れられるのか?」
「それは・・・・・」
「できないだろ。できないんだったら、自分を責めて北野に罪悪感なんて持つな。それは北野に対してもいいことじゃない」
「矢野・・・」
僕は俯いていた顔を上げて、隣を見上げる。
矢野がじっと真剣な顔で僕を見ていて、顔を上げた僕の額を指で押すように弾いた。
「バーカ。なんて顔してるんだよ。しっかりしろよ。今のお前には守ってやらなきゃいけない子がいるんだろ」
矢野は呆れたように笑いながら、僕の肩を叩いた。
「痛いよ・・・でも・・・矢野、ありがとう」
矢野の言葉に少し救われた気がした。
確かに僕は北野がこういうことを起こしても、北野を受け入れてあげることはできない。
僕が自分自身で守りたいのは、あいだけだから。
あいに出逢った今の僕には、もう他の誰にもこの手を伸ばすことはできないんだ。
「お前が俺に礼を言うとか、気持ち悪いからやめろよ。それより・・・あいちゃんの方はいいのか?かなりヤバいんじゃないの?」
「・・・・・うん、かなりヤバいよね。絶対誤解してるよね」
お礼を言った僕を本当に嫌がるように眉を寄せた矢野が、少し心配そうに言った言葉に僕は今までとは違った焦りを感じた。
あんな場面をいきなり見せられたあいが今、どう思っているのか・・・無性に不安になってきた。
「誤解してるのもそうだけど、かなり不安に思ってるんじゃないの?」
「・・・・・・・・」
矢野に言われて、僕は不安に揺れるあいを想像して、胸が押しつぶされそうになる。
あいを不安にしたくない。
そう思っていたのに、結局、その結果がこれだなんて。
僕は今すぐにあいの声が聴きたくなった。
声を聴くだけじゃなくて、会ってその不安をすべて取り除きたい。
そう思う僕は無意識にぎゅっと力を込めて拳を握っていた。