巡り愛
どれくらい時間が経ったのだろう。
ずっと玄関にいた私は、ようやく、涙が止まって、重い足を引きずるようにリビングへ移動した。
油断するとすぐに溢れてきてしまう涙をぎゅっと唇を噛みしめることで、何とか抑え込む。
真っ暗なリビングのガラスのテーブルの前に座り込んで、携帯で時間を確認する。
暗い世界に目が慣れていたからか、携帯の画面が明るすぎて、目に沁みる。
携帯の画面のデジタルは0時を過ぎていた。
追いかけてきてくれなかった圭さん。
電話さえ、掛けてきてくれない。
逃げ出した自分を棚に上げて、私はそれが悲しくて仕方なかった。
何も考えらないと思う頭の中には、あの場で聞いた言葉がリフレインされている。
『圭のことが忘れられないのっ!』
『圭の隣にいて、圭に触れてもらえてたあの頃のことがどうしても忘れられないのっ!』
絶叫するようなその必死な言葉。
あの人は圭さんの元カノ・・・。
鈍い私にだって、すぐにわかった。
圭さんを必死に見つめる彼女の瞳も、その言葉も。
圭さんのことが今も好きだと痛々しいほど、伝えていた。
痛々しい姿なのに、圭さんを必死に見上げるあの人はすごく綺麗だった。
彼女が“超絶美人”の元カノなんだと、私は直感していた。
あのカフェテリアで聞いた圭さんの研修医時代の彼女の話。
本当に“超絶美人”で、あんなに懸命に圭さんのことを今も想っていて。
圭さんもそんな彼女に気持ちが揺れてしまうのだろうか。
あんなに懸命に自分を想ってくれる彼女に、圭さんは気持ちを再燃させてしまうかもしれない。
だから、追いかけてきてくれなかった?
電話もしてくれないの?
何もかもが不安で堪らない私は、そんな卑屈なことばかりが頭の中を駆け巡っていた。