巡り愛
「車、ありがとう」
僕はまず、矢野のもとに行って、車の鍵を返した。
矢野は手を広げてそれを受け取りながら、ニヤリと意味ありげに笑った。
「あいちゃんのご機嫌は直ったか?」
「・・・・・まあね」
僕も矢野に負けないほど、意味深に口角を上げて矢野の目を見た。
そんな僕の視線と表情に、矢野は片方の眉だけ上げて、面白くなさそうに「ちぃっ」と軽く舌打ちした
「“いいこと”があったわけね・・・面白くない」
憎まれ口を叩いているのに、その目はとても嬉しそうに細められていて。
こいつは本当にいいヤツだと思う。
僕なんかを本気で心配してくれる大事な友達だと、今更ながらに思った。
「矢野の言う“いいこと”とは違うけど、あったよ、“いいこと”」
にっこり笑ってそう返すと、二、三度、瞬きした矢野が大げさな溜息を吐いた。
「何があったにせよ、幸せだって、滲み出てるよ・・・・・ああ、やっぱり面白くない」
そう言って、苦々しい顔をした。