【短編】体育祭で伝えられなかったコト
――体育祭
秋というイメージがあるが、春に開催する学校もあるので一概には言えない。開催時期はともかくとして、学校生活を送る中では有数の大きな行事である。
静華や凪沙ら3年生にとっては、中学生としては最後の体育祭だ。何がなんでも勝って、青春の思い出に、という人間も少なくはない。
そのくらいの熱が入る行事ではあるが、柳静華は冷めていた。体育祭だけではなく、自分が送らなければならない学校生活そのものに。
「所詮、楽しめる人間は限られているのだろう。」ただひたすらに、そんなことを考えて。
もちろん、自分がひねくれていることが分からないほど、彼女は子供ではない。しかし、ひねくれて諦めないほど、彼女は大人ではなかった。
そもそもの発端は、静華の恋愛事情にある。いや、これらを恋愛と呼んでいいのかは分からない。いわゆる片想いである。
しかしその片想いは甘酸っぱくはなく、どちらかと言えば苦い。ものすごく苦い。
片想いの相手には、彼女がいるのだ。静華は分かっていた。卑下ではく、明らかにその彼女は
自分よりも可愛らしく、
自分よりも大人で、
自分よりもしっかりしており、
自分よりも守ってあげたくなる存在であり、
自分よりも人の為に行動でき、
自分よりも彼のことを理解してあげていると。
そんなことが痛いほど分かる場面に、一体何度遭遇したのだろうか。その度に、彼の幸せを願う一方で、どこか彼らが憎いという思いが募り、そしてそんなことを思ってしまう自分が何よりも憎く、嫌いにならされた。
ここまで分かっているのなら、諦めればいいのだろうが、静華はバカであった。それはそれは、とんでもないバカであった。
ある日のこと。先生が図書委員を呼び、本を持っていかせようとした。残念ながら、大体の人間がサボりを決めた。凪沙も宿題に追われていたため、仕方なく彼女が、1人で沢山の本を抱えているときに、彼の声が聞こえた。
「静華ちゃん、大丈夫?って、おい?前見えてねーじゃん。」
そう言って彼は、彼女の抱えていた本を、軽々と持ち上げる。
「えっ、そんな。」
「図書室までだろ?早く行こうぜ。」
そう言って笑う彼に、ときめきを感じないわけがなかった。
そんなこんなで、静華は決意した。
「彼の幸せを願って、その彼女を守り抜いてみせよう。」
さながら、中世にいた騎士のような誓いである。あながち間違ってもいない。
実際に彼女は、行動に移した。昼休みや放課後など、彼らが触れあえそうな時には、彼らの仕事を自分が代わりにやると名乗り出た。さらに、彼女に危険があろうものなら、真っ先に彼女を救出にいった。
そのせいか、一時期、静華が彼女のことを好きなのでは、という噂が流れたが、まぁそう思ってくれるなら、それでありがたい。自分の思いを知るのは、凪沙だけでいい。
「本人に、言うつもりなんてないから。」
そう言って、静華は笑った。
その時の笑顔は、見ていられないくらいに切ない表情であったと、凪沙は思う。
→
秋というイメージがあるが、春に開催する学校もあるので一概には言えない。開催時期はともかくとして、学校生活を送る中では有数の大きな行事である。
静華や凪沙ら3年生にとっては、中学生としては最後の体育祭だ。何がなんでも勝って、青春の思い出に、という人間も少なくはない。
そのくらいの熱が入る行事ではあるが、柳静華は冷めていた。体育祭だけではなく、自分が送らなければならない学校生活そのものに。
「所詮、楽しめる人間は限られているのだろう。」ただひたすらに、そんなことを考えて。
もちろん、自分がひねくれていることが分からないほど、彼女は子供ではない。しかし、ひねくれて諦めないほど、彼女は大人ではなかった。
そもそもの発端は、静華の恋愛事情にある。いや、これらを恋愛と呼んでいいのかは分からない。いわゆる片想いである。
しかしその片想いは甘酸っぱくはなく、どちらかと言えば苦い。ものすごく苦い。
片想いの相手には、彼女がいるのだ。静華は分かっていた。卑下ではく、明らかにその彼女は
自分よりも可愛らしく、
自分よりも大人で、
自分よりもしっかりしており、
自分よりも守ってあげたくなる存在であり、
自分よりも人の為に行動でき、
自分よりも彼のことを理解してあげていると。
そんなことが痛いほど分かる場面に、一体何度遭遇したのだろうか。その度に、彼の幸せを願う一方で、どこか彼らが憎いという思いが募り、そしてそんなことを思ってしまう自分が何よりも憎く、嫌いにならされた。
ここまで分かっているのなら、諦めればいいのだろうが、静華はバカであった。それはそれは、とんでもないバカであった。
ある日のこと。先生が図書委員を呼び、本を持っていかせようとした。残念ながら、大体の人間がサボりを決めた。凪沙も宿題に追われていたため、仕方なく彼女が、1人で沢山の本を抱えているときに、彼の声が聞こえた。
「静華ちゃん、大丈夫?って、おい?前見えてねーじゃん。」
そう言って彼は、彼女の抱えていた本を、軽々と持ち上げる。
「えっ、そんな。」
「図書室までだろ?早く行こうぜ。」
そう言って笑う彼に、ときめきを感じないわけがなかった。
そんなこんなで、静華は決意した。
「彼の幸せを願って、その彼女を守り抜いてみせよう。」
さながら、中世にいた騎士のような誓いである。あながち間違ってもいない。
実際に彼女は、行動に移した。昼休みや放課後など、彼らが触れあえそうな時には、彼らの仕事を自分が代わりにやると名乗り出た。さらに、彼女に危険があろうものなら、真っ先に彼女を救出にいった。
そのせいか、一時期、静華が彼女のことを好きなのでは、という噂が流れたが、まぁそう思ってくれるなら、それでありがたい。自分の思いを知るのは、凪沙だけでいい。
「本人に、言うつもりなんてないから。」
そう言って、静華は笑った。
その時の笑顔は、見ていられないくらいに切ない表情であったと、凪沙は思う。
→