【短編】体育祭で伝えられなかったコト
――ついに来た、体育祭当日。
「これより、第54回。体育祭を始めます!!」
特になにも起こらず、噂についても誰も触れる余裕なんてなくなってきた頃の開催。
静華と凪沙、それと彼女は赤である。彼はというと、残念ながら白。彼と色を変わることが出来たなら、変わりたかった。
冷めているとはいったものの、守ることには積極的なのだが、なんとも言えない体になってしまっている。
実際、静華は少しながら楽しみなのである。
男子だけのリレーに、彼が出るのだ。それもアンカーで。
「彼、出るの?」
「え、しずしず。知らなかったの?」
嬉しさと驚きで、練習時には思わず二度見してしまった。
「あ、でも、リレーは点が高いからなぁ。勝たれたら困るけど、やっぱ、ひっそりと応援はするんでしょ?」
その言葉は、自分の心そのままだった。
本当ならば、自分の色を応援しなくてはならない。しかし、この競技ばかりはそんなこと、どうでもよかった。
「見てよ、彼女。嬉々としてる。」
言われて見た彼女は、まっすぐに彼を見ていた。
「もー、白に行きなよー!」
「そうだよ、行ってしまえ!」
「行けたら、いいねー。」
そんな彼女のまわりには、いつの間にか茶化す人間たちが寄っていた。

そんなリレーは、午前の終わりの方。それまでは、走ったり点をつけたりをする。
「あ、ほら。走ってるよ。」
言われて思い出した。
――徒競走の存在を忘れていた。走っているのは、凪沙に言われてからだったので、チラリとしか見れていない。彼は2位だった。1位は、赤の人。
「すげーな!2人ともはえー!!」
赤の皆が拍手をしていたので、自分もした。
「やっぱお前、強いわー。」
彼も、悔しそうに笑いながらしていた。
「でも、リレーは負けねぇから。」
その言葉に、自分が言われたわけではないのに、ドキリとしてしまった。

「ただいまの時点での得点はー。赤、230点。白、212点です。」
午前も終盤に入り、点としては、わずかだがこちらが勝っている。
「あっちぃ。……溶けるわぁ!」
水筒の中が軽い。飲みすぎたせいらしい。暑いのだから、仕方ない。日焼けについては、もう触れないことにする。
ふと、テントの端の前にいる彼女を見た。その視線の先には、白のテントがある。嬉しそうな表情だった。もうすぐかと静華も、表情には出さないがワクワクとした思いが込み上げる。
「なーに、嬉しそうな表情になってんの?」
後ろに座っていた凪沙が、いつの間にか隣の椅子に座っていた。
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