蓮杖探偵事務所の飄々事件簿
音を聞かないように、しかしその場で必ず待っているように。

特に俊平に言い聞かせた後、冴子はトイレの個室へと入っていく。

幾ら完全無欠の才媛とはいえ、やはり女の子。

こんな不気味な建物のトイレで孤立させられるのは怖いらしい。

…便座に座り、用を足す。

妙に静まり返ったトイレの中。

個室は考えようによっては檻の中のようだ。

窓もなく、景色も見えず。

唯一見れるとすれば上だが。

「……」

ふと見上げて、もし上から誰かが覗いて見ていたらどうしよう。

羞恥も勿論だが、こんな場所で見知らぬ誰かが覗いていたらと思うと、恐怖心の方が先に立った。

だから思わず。

「石動君、雛罌粟さん、いるぅっ?本当にそこにいるぅっ?」

音を聞くななどと言っておきながら、こちらから声をかけたりして。

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