株式会社「C8」
「…警察か。」
「成る程」と小さく呟く浩子だが、耳に入った話に確かな違和感を感じていた。それは、皐月や八代も同じだ。
それもその筈。自分達のような人間は、警察との接触は何が何でも避けなければならない。しかし、黒野は警察沙汰の事件が起き、今も尚天敵が張り込みをしているアパートに平然として出入りしている。
それだけではない。タイミングだ。タイミングがあまりにも良すぎる。まるで、自分達を近付けさせまいと言う意図が隠されているかのような…。
そうであるなら些か不愉快ではあるが、それなりに先を見越して行動していると取れる。先程、黒野は本当にプロであるのかと疑問を抱いていた浩子は苦虫を噛み潰したような顔で奴の部屋を一瞥した。
『黒野が空き巣をし、わざと警察をうろつかせている…なんて、少し考え過ぎでしょうか?』
八代と浩子は敢えて何も言わない。確証が無くともそれが解釈として正しいと思ったからだ。
けれど、本来の目的は遂げた。無事に黒野の拠点を突き止めたのだ。アパートには近付け無いが浩子の立っている場所からでも充分に監視は出来る。
「とりあえず、あたしは今から黒野の監視に入る。覆面には注意を払うけど、このまま無線は繋げたままにしておいて。二人共後は分かってるわね?」
『了解。』
『了解です!』
しかし、この日以降黒野が目立った動きをする事は無かった。
CHMに潜入するどころか、ハトヤマの警備の仕事以外ではアパートの外に出る事も無く、立間にも接触しないまま金曜日を迎える事となったのだ。
尾行後も八代は立間への接触の他に水曜と木曜で必要無くなった盗聴器の回収、それに加えガーデンホテルに忍び込み当日の為に爆発音の鳴るギミックを仕掛け、皐月は盗聴の他に、黒野の拠点近くに張り込む浩子とのやり取りを続けたが三人共、何か釈然としない様子であったのは言うまでもない。逆の立場なら必ず何らかのアクションは起こしていた筈だ。
もしかして、新薬のデータから手を引いたのではないか。そう言った予測も僅かながらに飛び交う中、単独であった事は好都合だと、彼等は雑念を振り払い依頼遂行に努める為各々のタイミングでガーデンホテルへと足を運んだ。