株式会社「C8」




パーティーの開始時間は午後一時。八代は立間と共に十五分前には受付を済ませ、会場に入っており彼女の後ろについて社内外から招待されていた人間に挨拶をして回っていた。彼女は学会を控え少々話題となっていたらしく、あらゆる人物から期待と嫉妬の眼差しを浴びている。それを笑顔で返す傍ら、顔の整った異性には執拗に距離を詰めたり、自分の携帯番号が書かれた名刺を意味有り気に渡している姿に、八代は呆れて肩をすくめるしかない。

一時間際、皐月が会場に入って来る。何気なく八代の近くに立った。重役の息子、成る程見えなくも無い。特に変装もせず、そのままスーツを着ているが眼鏡がそうさせるのか、頭の良さそうな出で立ちである。その様子をちらりと見た八代は口角を上げた。

互いに繋いだ無線からは、浩子の声が聞こえる。



『黒野が会場に入る。武器の所持は判断出来ない。奴を見つけ次第目を離すな。あたしは所定の場所に移る。八代、タイミングは任せたわよ。』



程なくして皐月は会場に入って来た黒野を確認し、八代とアイコンタクトを交わす。

黒野は変装と言う程でも無いが、眼鏡を掛け、オールバックの髪を下ろしスーツ姿で会場の隅から全体を見回している。立間を探しているのだろう、八代は彼女を隠すように位置を右にずれた。


さて、立間希美殺害までの行程だが至ってシンプルな物だ。如何なる場合でも、最後の仕上げは単純である方が良い。下手にややこしくして、引き際で失敗する事程醜い物は無い。手を抜いている訳では無いが、手の込んだ事をするのは仕上げの手前までだ。失敗する可能性の事を考えれば効率の良い話だろう。

内容は、まず立間の持つシャンパングラスに八代がこっそりと睡眠薬を垂らす。睡眠薬と言っても量が僅かな為、彼女が実際に眠る事は無い。ただ、頭がぼんやりとする程度だ。彼女を別室に連れ出す理由になりさえすれば良い。浩子が隠れている別室に誘導し、八代はトイレだと言って席を外す。実際は会場に戻り、皐月と共に撤収に備えるのだ。

八代が立間を連れ出す際、黒野が目を光らせている状況では最悪後を付けられる恐れがある事を考え、皐月は黒野に接触し時間を稼ぐ。



< 101 / 141 >

この作品をシェア

pagetop