株式会社「C8」
皐月がこの二日間やっていたのは盗聴のみ。浩子とのやり取りもしていたが、あれは報告をし合っていた過ぎない。特に問題になるような事は互いに何もなかった。
一つだけ気になるとすれば、立間が自宅で何者かと電話をしていた時の事。
一瞬電波が滞り、途切れ途切れにしか会話が聞き取れない時間が十秒程あった。しかし、それまでの会話は別段怪しむ内容では無かったし、こういった事は稀にあるのでその時は気に止めなかった。
途切れ途切れの会話の中で立間が言っていた言葉――。
『…イア…イデン…今まで……隠し………理由………の為の………ぎを…て……だけ。』
訳の分からない事だからと、二人に報告はしていない。だが、今になってこの言葉が頭の中を反復する。
――あの時、彼女は誰と会話をしていたんだ?何の話を……。
訳の分からない言葉の断片から一つの不安が皐月の頭を掠めた。
――まさかね、あの組織は三年前に解散したって浩子さんが言っていたじゃないか。
依頼を受けた時、立間希美についての資料は学が用意していたし浩子も詳細は追加で調べていた。彼女については既に網羅している。今になって心配する必要は無い。皐月は自分にそう言い聞かせ、再び黒野に視線を移した。
「……?」
――まだ探してる。
黒野の様子は先程と何ら変わっていなかった。
確かに会場は広い。出席者も多い。けれど立間の着用しているドレスは赤と目立つ。いくら八代が壁となっていても、見付けるのにそこまで時間を要するとは思えない。奴はプロだ。
風間社長に祝辞が述べられ、マイクによって誰とも分からない重役らしき男の声が会場内に響く。パーティーが始まってから約二十分が経とうとしていた。
――おかしい、黒野は誰を探してるんだ?
確かな違和感を感じた皐月が、後ろにいる八代を振り返った時、立間がふらつきながら八代の肩に掴まっているのを見て、そろそろだと身構える。黒野の違和感等、一瞬で脳内から放り出てしまった。
八代は皐月に口パクで『作戦開始』と伝え、立間を支えつつ静かに会場から出て行った。皐月は慌てて浩子にそれを伝える。
『了解。すぐに黒野の方を頼む。』
『はい!』