株式会社「C8」




「―――っ!?」



やられた。そこまで気が回っていなかった。皐月は背後にいる黒野を振り返る事が出来ない。

あの時、彼のパソコンにハッキングしてきた際、黒野に盗まれた捨てアド。

確かに、複数のアカウントをランダムに選んだサイトで作成し、その中の一つに、学生専用のサイトで作成したアカウントもあったのは事実…。

この会場で、学生に見える人間なんてそうそういない。それに、先程のやり取りから皐月の反応を見て、断定材料にしたのだろう。


――ヤバい、気付かれた…


しらを切ることも出来る。だが、この状況で不利なのは此方の方だ。黒野の出方次第では、最悪のパターンも覚悟しなければならない。

もしかすると、黒野が探していたのは自分達だったのではないか。皐月と、立間の側にいた八代は確認済みで、裏で操作している浩子の存在を探していたのではないか。悪い想像が絶えない。

普段は冷静な皐月も、予想外の出来事に脳内はパニック寸前。一体、どうすべきか。選択肢は選べる程無い。



「……腕はあるのだがな。しかし、お子様が遊び半分で存在して良い世界では――」


『皐月、八代が戻った。そろそろドカンと行くから。そっちは大丈夫?何かさっきから黙ってるけど…。良い?何も慌てる必要なんて無い。もう、黒野の負けは決まったんだから。』


「!」



――浩子さん、違うんです。コイツの目的は立間じゃない。僕の正体だってバレている…。もしかしたら僕達を狙っている可能性が…。うかつに動かないで!


無線機の向こうの浩子にそう伝えたくても、背後の存在がそれを許さない。

ヤバい、どうにかしないと。意を決して、ゆっくりと後ろを振り返る。黒野の表情は『無』だった。皐月の甘さを嘲笑うことも、見下したような顔もしていない。ただ、無表情で此方を見下ろしていた。


――お前は、何を企んでいる…


浩子が黒野の目的が立間でないと知ったとすれば、「それなら無関係だ。此方に危険が無いと分かったら、もう気にするな。」と言うだろう。けれど、皐月はどうしても明白にしておかなければ腹の虫が収まらない。

それに、此方に危険が無いとはまだ分かっていないのだ。

「一体何を企んでいるんですか。」そう問いただそうと、狐目を睨み付けたその時。



『眼鏡、戻った。さっさとずらかる準備しろ。』



会場に戻って来た八代の声が、無線機の向こうから届いた。



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