株式会社「C8」




悪い悪戯かと思った。けれど、そうでは無いらしい。毎度毎度、勝手な奴ではあるが今回は少しばかり…否、かなり自由奔放すぎる。

相手が早口でまくし立てるように話すものだから、何があったのか聞く暇さえ無かった。



『悪い、しばらく事務所には戻れねェ。休暇もらうわ!とりあえず無事だから心配すんな。』


「…は?何、」


『調べ物が済んだら戻る。』



会話はそれだけ。八代はすぐに電話を切ってしまった。状況説明や、休暇申請の正当な理由すら聞いていない。浩子は半ば携帯を投げ捨てるようにして皐月に返した。



「今月分、全額減給…。」



あからさまな異変に、皐月は若干怯えながら八代と何を話したのかと聞くが、浩子はそれを無視し、自分の椅子にドカッと腰を下ろす。

無事なら別に良い。…が、あの不躾な態度には腹が立つのも当然だ。


――調べ物…ねぇ。皐月に頼めば早いのに。ま、八代も系統的には同じだけど…。にしても、変なタイミング。やっぱり、何かあったのか…黒野と接触した…とか。


ふるり。身震いしたのは冷房のせい。


――野暮な事はしてくれるなよ、八代。


浩子は皐月を一瞥する。

帰りの道中、車内で彼から話は聞いた。恐らく、正体がバレていても、皐月の身に何か危険が及ぶ訳でもない。あの場で黒野に殺され無かったのがその証拠だ。

しかし、今回の依頼も、黒野の事も、全てが曖昧のまま終わってしまった。

『深追いはしない。』そう煩く言っている自分ですら、依頼を無事完遂したのに疑問が浮かぶ。

確実に、何か確実に、見落としがある。

それが組織に害をもたらす物だとは思わないが、どうも腑に落ちないのだから気持ちが悪い。

そして、浩子が銃を向けた彼女、立間希美の死に際の言葉…。



『…組織の人間?それとも、加藤個人の差し金?…ふふ、成る程ね。結局組織でもこっちでも…加藤には勝てないってわけ…。』



――『組織』ってのは、ウチの組織の事?それとも別の…?


『組織』と言うのが浩子達の組織で無いとすれば…、加藤学と立間希美は、CHM以外の所でも何か繋がりがあった…?

自分達の組織を指していたなら…、彼女は元々命を狙われている身だった?

分からない。何も分からない。

浩子は自身の携帯を取り出し、クライアントである学へ電話をかけた。



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