株式会社「C8」
「依頼を完遂致しましたのでご連絡しました。まだ御実家でしょうか?」
『あ、ああ……はい。そ、そうです。あ、いや、ぁ、…この度は、どっどうも、ありがとうございました。それで、あのっ、し、資料の方はっ…。』
――何だ…?
電話の向こうにいる学の様子がおかしい。他人の手であれ、人を殺した罪に苛まれているのだろうか。何か焦っているような感じもするが…。
「…今から送りますので御確認下さい。以前教えて頂いたパソコンのアドレスで宜しいですか?」
『は、はい!すぐ!すぐにお願いしますっ!』
「……。」
USBのデータをメールに添付し、学のパソコンに送信する。
これで依頼は終了。後は、立間の死をニュース等で後日確認させ、学に直接書類へ印鑑を押してもらえば全行程が済む。
『あ!来ました。…た、確かに。私の研究資料です…。』
「依頼内容の事実確認をして頂けましたら、印鑑を持参し事務所まで来て頂けますか?それで契約は終了となります。」
『えっ、あ、…はい。…わ、分かりました。ニュースで確認します。』
「……では、後日此方から御電話差し上げますので。……あの、加藤様、失礼ですが…。」
『は、はい…。』
――黒野の事もそうだが、思えば最初から…コイツも…。皐月の話、もしかしたら…。
くるり。
電話を繋げたまま、椅子をゆっくりと回転させ、冬真を視界にとらえる。すぐに目は合うが、彼が此方の意図に気付く筈もない。
ただ、口パクで『ヤバい』と伝えると、彼の表情が強張った。それを見ていた皐月も、心当たりにハッとする。
彼が浩子に話したのは、黒野の事だけでは無かった。
立間と何者かの通話でのやり取り。電波の様子がおかしくなった、あの時、途切れ途切れだった彼女の言葉――。
「失礼ですが、鉄の処女…ってご存知ですか?」
『っ!?……な、何ですか、それは…。わ、分かりませんね。』
「……。中世ヨーロッパの拷問具ですよ。」
『あ、ああ、それなら…知ってますよ。け、刑罰や…拷問の時に使っていた…。ですが、そ、それが…何です?』
――ああもう、これは…本当に…。
「………。ああ、知っていましたか。成る程。いえ、最近、中世ヨーロッパの歴史を少し…興味深いんですよこの頃の拷問具は。」
『………失礼します。』
ツー、ツー、ツー、ツー。