株式会社「C8」




通話が終わった途端に二人が詰め寄って来た。しかし、浩子は黙ったままで、一人、考えを巡らせている。


――黒野がどうのこうの言ってる場合じゃない…。あの組織が…動いてる…。


『鉄の処女』それは、アイアンメイデンのもうひとつの名称。まさかと思い、揺さぶりをかけてみたが、あの動揺の仕方や、あからさまな反応の限り…十中八九、加藤学と立間希美はアイアンメイデンの人間だろう。

皐月から聞いた、立間の電話での言葉に加え、死に際の言葉。結果的に浩子の思う疑惑は、真実味が色濃くなった。


――最初から、加藤は普通なら知り得ない事まで把握していた…。


彼は彼女に対し、復讐をしようと度重なる嫌がらせをしていたらしいが、彼女のロッカーや、更衣室にある監視カメラの個別製造番号…。そこまで調べる必要があるのだろうか。これらは、浩子や八代が調べるようにと指示を出していた訳ではなく、最初に持参させていた彼女に関する情報の中にあったもの。

彼女に関しての情報で、足りない部分は此方でも調べた。しかし、それは彼女の自宅の近辺の様子だったり、セキュリティ情報だったり、依頼の遂行上で必然的に知り得て行った事もある。

彼女の『過去』や『経歴』は、全て学からの情報提供があり、此方が再度詳しく調べ直すような事はしていないのだ。虚偽を記していたとすれば――。


――立間希美について、詳しく調べ直す必要があるな。加藤についても、見落としがある筈だ。



「冬真、ウチと業務提携組んでる組織のトップを全員集めて!明日、緊急会議を開くから。皐月は、立間希美について詳しく調べ直して。あたしはもう一度、加藤学について調べ直す。」


「…分かった。」


「え…は、はい。あの、浩子さん、もしかして…。」



「ええ、多分…アイアンメイデンが動き出してる…。今回のクライアントも、ターゲットも…あの組織の人間で間違いない。」


「「!!」」



――けど、何故…犯罪組織の人間が普通企業なんかで…。あの連中は表立った事はしないのがルール…。それに、ここまで分かったなら、黒野の目的も…。



「あの新薬のデータって…。本当にただの新薬…なの?」



明日の朝、学に直接会いに行く必要がある。浩子は重々しく、パソコンのキーボードを叩き始めた。



< 113 / 141 >

この作品をシェア

pagetop