株式会社「C8」




翌朝、結局八代は出勤して来なかったけれど、冬真と皐月、そして浩子はピリピリとした雰囲気の中、事務所に集まっていた。

相も変わらず、二階にあるエアコンは故障中であり、皐月はノートパソコンを手に、冷房の効いた三階のソファーを陣取っている。

誰が電源を入れたのか、テレビでは朝のニュース番組が放送されていた。


皐月の方で、立間希美に関して色々と調べた結果、決定的な事実は分からなかったが、一つ、不審な点が浮上した。

彼女の所持している携帯電話について。番号やアドレスは分かっているので、携帯会社にハッキングして暗証番号を入手し、遠隔操作によって中身を調べた結果、履歴は削除してあったものの、一部を復元し、『K』なる人物からメールが届いていた事が分かった。

内容は単純で、


『新薬の資料を返せ』

『上に逆らうのか。返さないのならば殺す』


等と、明らかに『K』=『加藤』だと分かるものだった。

依頼遂行中、早々にこの手を使っていたなら黒野の事や、他にも色々と情報を入手出来たかもしれない。しかし、結局のところ、彼女の携帯には特殊なセキュリティが施してあり、復元出来ない物の方が多かった為、ある意味『賭け』に近かった。携帯会社も、あまり聞いたことのない、無名企業であった事から、正規のルートで入手した物ではない可能性が高い。

二人がアイアンメイデンの人間だったとして、組織では加藤の方が上の立場だったのだろう。立間希美が発した言葉からも、この上下関係が分かる。

加藤が彼女に対して、復讐と称した嫌がらせをしていたのなら、彼女は加藤本人の仕業だと分かる筈。しかし、自宅のセキュリティの強化や、SPを付ける事しかしなかったのは、この上下関係が理由だったのではないか。

いくら立間がCHMでは階級的に上であっても、出来る事と出来ない事があり、学に対する社内での侮辱も、ギリギリの逆恨みだった…。


――いや、全て憶測だ。無理矢理なこじつけにしかなってない。根拠が曖昧すぎる。…浩子さんはどう考えているんだろう?この依頼の事も、黒野の関与も…。



「…またか。最近やけに多いな。」



ポツリ、ふいに冬真がそう呟いたので、何の事だろうと、皐月は彼の顔を窺う。

彼の視線から、ニュースを見ていて呟いたものらしい。

何かと思い、液晶画面に注意を向ければ、ここ連日、裏組織の間でも話題になっている事だった。



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