株式会社「C8」
「……皐月?」
「……?」
皐月は『異様』だった。何か、とてつもなく残虐な殺人現場を見てしまった人間のような…又は、尊のように、この世に存在しない筈の何かを見たような、そんな、非現実的な様子だった。
二人は肩をすくめ、首を傾げる。
「誰が…どうして…。」ただそう呟く彼の視線は、液晶画面にあり、不思議そうな冬真が彼の視線を辿ると、『それ』に気付く。ニュースの内容はまだ、変わっていない。
「!………組織か、それとも…。」
「は?何、冬真まで変な顔して。」
漸く、浩子も視線を移した。
二人して何を驚いているのか。先程のニュースについて、警察の活発な働きに今更ビビっているのなら、極して馬鹿らしい。
自分達は他の有力組織と提携を組み、必要な情報は互いの組織にすぐ回すよう、連絡網もしっかりとしている。そんな事、皐月はともかく、冬真は重々分かっている筈。
何をそんなに――
そう、考えていたのも束の間――
『男性刺され死亡、被害者、加藤学さん』
画面右上の見出しを読み、事を理解するのにしばらく。アナウンサーの困惑した言葉に、口を開くまで二分。
「…強盗殺人て、まさか…。」
瞬時にして、浩子の脳内に、今までの情報と分析が恐ろしい程のスピードで駆け巡った。
『一ヶ月も前から黒野はターゲットに接触をしていた』
『接触前から、下調べくらいしていて当たり前』
『奴の目的は、やはり最初から新薬のデータだった』
『初めから加藤を』
『立間は噛ませ犬?』
『此方の狙いを知り、泳がされていた?』
『CHM内に黒野の仲間がいて、此方の様子を』
『何の疑いも持たなかった黒野の社員リスト』
『じゃあ、何故ハトヤマに』
『例の組織が絡んでいる』
『奴の真の目的は』
『ガーデンホテルで探していたのは』
『恐らく、新薬のデータは奪われた…誰に?』
『加藤を殺したのは?』
『組織か』
『黒野か』
『やはり…あれは…』
「ただの新薬のデータなんかじゃ無い。」
それを突き止めようにも、気付くのが遅すぎた。二人はもうこの世にはいない。
そして、八代の言う通り、黒野を野放しにするのでは無かったと、浩子は小さく呟いた。