株式会社「C8」
「あれはダミーだ。職歴も嘘を書いた。本当の狙いはハトヤマ社そのものにあると思わせ、油断させようと思ったが…まあ、これはあまり効果が無かったな。その件もハッキングでのやり取りの件も、ただの脅しだった。」
カラン…。
男はグラスの中のアルコールを飲み干し、黒野に二杯目を催促する。それに対して何も言わず男のグラスにボトルを傾ける黒野。
並々と注がれたウィスキーが溢れないようにと、素早くグラスに口を付けた男は一呼吸置いて次の疑問を口にした。
「お前が加藤学を殺したんだよな?」
「違う。確かに俺は加藤を撃った。だが使ったのは麻酔銃だ。……遅かれ早かれ殺されるとは分かっていたがな。」
「は…?じゃあ一体…。」
男は困惑した。黒野の言っている事が理解出来なかったからだ。
しかし、男は真意を聞かず押し黙った。自分で答えを導き出そうと言うのだ。先程のように考え込むような仕草を見せる。
一方、黒野は狐目を糸のように細め、ぽつりと吐いた。
「お前、例の組織が動いているのは知ってるな?」
「…アイアンメイデンだろ。解散したって聞いたけど、実はそうじゃなかった。…て言うか、黙っといてくれよ。今お前の言った事がどういう意味なのか推理してんだから。」
「じゃあ、今から独り言を言う。聞き流してくれて構わない。どうせお前は引退するんだしな。」
「はあ?」
男は更に困惑した。困惑しながらも、一旦黒野の言葉に耳を傾ける。どうせ、全て話すつもりなんだろう、と。
「…俺はアイアンメイデンを潰す為に、情報を集めながらこの仕事をしている。親友が奴らに殺されてしまってからずっとな。」
それは知ってるよ。と、男は内心思いながらも言葉を待つ。既に知り得ている事まで聞くのは面倒だったが、種明かしならば、催促するのは野暮だろう。
黒野は無表情から一変し、険しい顔付きになった。そして、ポケットからUSBを取り出し眺める。男はそれが何なのかを知っていた。黒野が学から奪った新薬に関するデータだ。
「今回俺は仕事じゃなく、個人的な調査の為に事を運んだ。警備員になりハトヤマに潜入していたのは、ハトヤマ社に組織の人間がいると言う話を聞いたから…。」
「!!」