株式会社「C8」




男が驚愕しても、黒野は淡々と続けた。


「すぐにそれらしい人物を見つけたが、此方は命を狙われている身。本人に気付かれないように組織に関する情報を引き出そうと、あの手この手で調べた。その結果、CHM社に幹部の人間が二人いると分かった。立間希美と加藤学。奴等がそうだ。」


「………。」


「どうやら二人は組織内で地位争いをしているらしく、仲は悪かった。CHM社内では立間が好き勝手やっていたみたいだが、実際、地位が上だったのは加藤で、奴は組織のトップから直々に何か仕事を任されていたようだ。それが、この新薬のデータ。だが、別に、新薬の調合を命令されていた訳では無い。新薬とは表向きの皮。この新薬に関するデータの中に、組織の最重要機密が暗号化されている。まあ、トップへの報告書と言ったところか。」



ここまで聞いた話で、男はある仮定を立てる。

立間は組織内では無理でも、せめて会社の中では加藤より上でありたかった。それ故、新薬の開発に成功した加藤からそのデータを奪い、手柄を自分の物にしようとした。

しかし、それは組織への報告書。同じ組織の人間であれ、極秘機密が立間に漏れてしまうのを恐れた加藤は適当に理由を作り、黒野と同じような仕事をしている組織に、立間殺しと新薬のデータの奪還を依頼した。自分の組織に立間の事を報告したところで、データ流出により、機密厳守を守れなかった責任を問われ、加藤は組織の人間に殺されてしまうだろう。

成る程、それでは結局、加藤はその事実に気付いた組織の人間に殺されてしまったと言う事か。



「組織に忠実な加藤、半ば道楽で組織にいるらしい立間。それで、不真面目な立間なら俺を知っている可能性が低いと考え近付いた。奴は暗号に気付いてなかったみたいだが、加藤は相当焦ったんだろう、裏組織に立間の暗殺と、新薬のデータの確保を依頼した…。」


「…………。」


「まあ、アイアンメイデンの連中もそんな事はすぐに気付く。CHM社社長の誕生日パーティーの日、加藤から報告書を奪った立間を殺そうと、組織の連中は会場に来ていた筈。その連中を見付ける為に俺はその場に出向いた訳だが…、立間は加藤が依頼した組織の人間に殺されてしまった。何が何だか解らなくなった組織は加藤を問い詰めようと、本人の自宅へ向かったが既に報告書は俺の手の中。もちろんその失態で加藤は殺されてしまった。…まぁ、こんなとこだろうな。」



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