株式会社「C8」
次第に青ざめる男の顔色。
無理もない。黒野はとんでもない物を盗み出したのだ。アイアンメイデンの上層部は血眼になって新薬のデータを探すだろう。黒野と突き止めるか、それとも加藤が頼りにした裏組織の方を叩きに来るか…。
これは、我が身可愛さで聞かなかった事にする他無い。男はそう決めた。
「一応、新薬は学会で発表すると言う事だったからな…組織の誰かが学会の席に来る可能性が高いが…。何せトップと繋がっている機密故に確保を優先した。早いところ、解読しなくては。」
否、しかし…。男はある引っ掛かりを感じていた。
犯罪組織の人間は裏社会の場にも滅多に現れないと言うのに、警察のいる表の世界で何故普通に働いていられるのだろうか。
小規模の犯罪組織でも、表の世界で働く事等御法度だ。
何故だ…。何故、表に出ている。
何か嫌な予感がする。何か良からぬ事が起こっているのではないかと、不安気に黒野を見る。
すると、黒野は狐目を見開いて頷いた。
「…お前の考えている通りだ。」
「……え?」
「何か起こっているんだよ。これは、あくまで俺の推測に過ぎないが、最近、立て続けに裏組織が警察に検挙されているだろう?もしかしたら、アイアンメイデンが警察とリンクしているんじゃないかと思う。前のトップが総理大臣と繋がりを持っていたんだ…あり得ない話でもないだろう。」
「はっ!?な、何言ってんだよ!そんな事あるわけないだろ!そんな事になったら裏社会は…。」
「…潰れるな。アイアンメイデンはそれが目的に違いない。自分達犯罪組織で裏社会を支配したいとかそう言う――」
ガタン!
男は身体を震わせて立ち、低い声で唸るように黒野の話を遮った。
「おい、それ以上は何も言うな…。俺は裏社会から足を洗うんだ。そんな恐ろしい事、知りたくねえ。」
「…座れ。独り言だと言ったろう。」
「!、………けどっ」
「T、お前は今日以降、俺との関わりの一切を断てば良い。ただ、万が一俺が死んだ時、理由を知る人間が一人くらい居てくれても良くはないか。」
――それは…。
黒野の、まるで死を予期しているかのような口振りに、男は信じられないと言った顔でストンと椅子に体重を預け直す。
止めなければ、等とは考えていないが心中穏やかではない。