株式会社「C8」
CASE2:死者の秘計
夕刻になっても夏場の内は外も明るい。
歩く度になびく深みのある青い長髪は、夕日の明かりに照らされ、赤みがかって見える。
寄り道をしている学生、仕事帰りのサラリーマンや、買い物途中の主婦。何度か見た顔もあり見慣れた筈の街を歩いているのに、道行く人々は此方の事など素知らぬ顔だ。
それもそうだろう、住まいは山奥にある大きな神社の側にある屋敷。職場は薄暗い路地裏の廃れた廃ビルで、窓から遠目に見える街を眺める事の方が多いのだから。
別にそれが嫌な訳では無い。むしろ、彼は今の職場が気に入っている。
友人の居ない彼にとって、職場の人間が友人であり大切な仲間。互いに深く干渉せず、それでいても互いの事を思い合える。
その場所でしか、本当の自分が分からないとさえ感じるのだ。
ワイワイと賑やかな商店街を通り、目的地へと歩を進める。
クライアントとの待ち合わせは六時、場所は事務所から近い所にある喫茶店。一度自宅に戻り準備を整えた尊は、時間に余裕を持ってその場所へ向かっていた。
数時間前、事務所で浩子から手渡された依頼書によると、今回のクライアントの名前は久坂部太一(クサカベタイチ)、美帆(ミホ)夫妻。久坂部太一は衆議院議員をしている有名な人物だ。以前にも一度護衛関係の依頼を受けている。
今回の依頼内容は「心霊現象の解決」。
尊の専門だが、ここ最近そういった依頼は回って来なかったので久しぶりの仕事である。
陰陽師家神城の跡取りである尊は、実のところ当主である父、朱冥(シュウメイ)と不仲だ。何故仲が悪いのかと言うと、尊が陰陽師の修行より「C8」の方に力を注いでいるから。
父の朱冥は「C8」の存在を知っている。どんな仕事をしているのかも、どんな人間がいるのかも全てを陰陽師の力を利用して知り得ているのだ。
父はそんな息子を許せないし、息子もそんな父を煙たがる。
尊が今回久しぶりの仕事なのも、朱冥が裏で「心霊」の類いの依頼を、金を積み根刮ぎ浩子から奪っている為。もちろん尊はそれを知っている。
浩子も浩子で、尊の親である朱冥の言うことには一理ある。しかし、それでいて尊の意思も尊重したいという、中間で苦い立ち位置にいた。
尊はいずれ父の跡を継ぐ。それで良いとも思っている。だが、それまでは自由にしていたいだけなのだ。