株式会社「C8」




便利な『何でも屋』とでも認識しているのだろうか。でなければ、こんな箱入り娘同然の彼女が裏組織に仕事を頼むなど考えられそうにない。今は『死人』であるが、政界人の娘とはそういうものだ。


とは言え、些か不可解である。

浩子の話では、報酬は既に支払われており、依頼の交渉も済んでいた。

死んだばかりの不安定な幽体で、彼等の存在を感知出来ない浩子と直接交渉を?

見た所、何の力も持っていない彼女がどうやって…。

そもそも、話の信憑性も薄い。久坂部議員に直接連絡を入れた方が良いのではないか。そう思い、尊は携帯を手に依頼書に記載されている連絡先を確認する。

夏芽はと言うと、そんな彼の意図を汲み取ってか、人差し指でカウンター席の方を示した。



『父なら…あそこに…』


「……え?」


『…生放送です』



彼女の指の先には昭和モデルのブラウン管。店主がわざわざ地上デジタル放送を見れるように改造したものだ。

この時刻だと、普段なら夕方のニュース番組のチャンネルに設定している筈。最近は、やたらと冷や汗を握るようなニュースばかりが報道されているが、警察の働きが良いのは一般人や国にとって頼もしい事だろう。けれど、『此方側』に立っていれば同業者組織が次々と検挙されている状況であり、少なからずの不安は抱く。

と、思う一方で、尊はそれを何処か他人事のように捉えている節があった。根拠の無い安堵を感じているのだ。

陰陽師の人間だからなのかは分からない。しかし、昔から厄介事には巻き込まれないで生きてきた。災難が降りかかろうとも、さして苦労する事なく、ゆるりゆるりと流れに身を任せていればいつの間にか何とかなっていたのだから、苦労知らずと言うのか何と言うのか。

今も昔も、彼の背後にはいつも父である朱冥の力が存在する事など、当の本人は知る由もない。



「…あれは…確かに、久坂部議員ですね」



『LIVE』とテロップが表示されている画面。ニュースではなく、ワイドショーが放送されていた。良く見る政治評論家に、ベテランアナウンサー、そしてクライアントである筈の久坂部太一議員の姿がある。



「…失礼ですが、どのようにして社長と交渉されたのですか?」



彼女の言う事が本当だったとしても、クライアント虚偽については黙っておくべきではない。経緯を聞いた後、内容によっては契約を破棄した方が良いかもしれない。




< 126 / 141 >

この作品をシェア

pagetop