株式会社「C8」
「あ、あの…。」
「大丈夫ですよ、秘密は守りますし。リラックスして下さい。時間はありますのでゆっくり話してもらって結構です。」
落ち着きの無い彼にお茶を勧め、一呼吸置くように促す。それに素直に従う学。
自分の横に置いたスーツケースの中身はおそらく報酬金。知人から聞いているだろう彼は大金を持って来ていた。それを見て思わず口角が上がる八代。そんな彼の足を浩子は机下で思い切り踏みつけた。
「…あの、電話でも一度お話しましたが…私の上司である人物を一人、殺して欲しいんです…。」
と、震える手で此方に渡してきたのは何枚かの紙が入ったファイル。ターゲットに関するデータだろう。これは事前に此方から持参するように言っておいた物だ。
細かな事は調べるが、ある程度の情報は持ち込んでもらう。
浩子はファイルから紙を取り出して目を通す。
「…相手はCHMで全ての研究を取り仕切っている、立間希美(タチマノゾミ)です。」
「理由は?」
八代が尋ねると、学は酷く表情を歪ませた。
「あいつは…、この女はっ!俺の人生を掛けた研究成果を横取りしたんですっ…。」
学の話はこうだ。
学は大学生時代から疑問に思っていた事を卒業後すぐにCHMに入社して研究していた。それはガン細胞の増殖に関する事だった。
長年の研究が上手くいきその結果を元に、ガン患者に対して負担の少ない新薬を作ることに成功した。
自分の人生を掛けて行ってきた研究が実を結びこれ以上無い喜びに包まれていたのも束の間、その研究結果を立間希美が自分名義で学会で発表すると言い出したのだ。
文字通り職権乱用、抗議すると彼女は学に対して逆ギレし薬剤師の肩書きを剥奪すると言って脅して来た。
彼女の立場上、そこまでの権限は無いと思われるが…実は、立場希美はCHMの社長と愛人関係にあった。それも社長の大のお気に入りらしく、その関係を利用して日頃からでかい態度を取っているのだ。
そんな事があって以来、彼女は同僚や上司にあらぬ噂を流し学は会社で肩身の狭い思いをしている。