株式会社「C8」





翌朝の九時、徹夜で作業していた八代は仮眠から目覚めた。目覚まし時計のアラームが煩い。



「……ねみぃ…クソッ…。」



乱暴に目覚まし時計を止め、浩子のデスクを見ると本人の姿は無い。自宅に戻ったのだろうか?

軽く伸びをしてサングラスをかける。ゆっくりソファーから立ち上がると机にメモが置いてあるのに気が付いた。どうやら浩子からの伝言らしい。



『立間希美の自宅調査へ向かう。八代は起き次第変装してCHM本社に潜入。セキュリティの把握及び盗聴器等の設置、ターゲットに接近し彼女の日常生活における情報を入手せよ。』



メモの隣にはいつの間に用意したのか、偽造したCHMの社員証が添えてある。迅速な措置に多少関心しながら書庫に置いてある変装道具を持って全フロアを施錠し、廃ビルを出た。

近くのパーキングエリアに停めてある愛車のセダンに乗ると、会社員風のスーツに着替え、サングラスを外す。首に社員証をかけ、途中の自動販売機で買った缶コーヒーを喉に流し込んだ。


CHMの新薬研究チームは五グループに別れており、それぞれ第一から第五研究室で作業に没頭している。泊まり込みになる事が多い為、自由な時間に自宅と会社の行き来が許されていた。

昨晩の内にCHMの社内の見取り図は頭に入れてある為、迷子になる事は無い。



「準備オーケィ。」



キーを刺し、車のエンジンをかけて走らせる。CHMは十五分もあれば着く場所にある。一般の通勤時間を過ぎている為か、道路は空いていた。


夏場特有の入道雲や、店に掛かる「氷」の文字、暑さによる道路の霞み…。

七月に入って一気に暑さが増したように思う。暑いのが苦手な八代には迷惑な季節。

八月に入るとどうなるのだろうか…。今以上に暑くなる等考えたくもないが、地球温暖化がどうのこうのと言われている今、自分一人が省エネに努めても何も変わらないことくらい知っている。だからエアコンも低温でホイホイ使うし、ハイブリッドカーなんて興味も無い。結局はどうでも良い。

なんて、それこそどうでも良い事を考えているとCHMのビルが見えて来た。駐車場も敷地内にある。



「さて、行きますか♪」



偽造した社員証を門の警備員に見せ、堂々と敷地内に侵入した八代。こういう時程顔がニヤける事は無いと本人は思う。どうも子供のようにワクワクして仕方がない。なのでやめられない。



< 7 / 141 >

この作品をシェア

pagetop