株式会社「C8」




一本道であり隠れる物も見当たらない為、後に続くのを躊躇ったものの、浩子は少し間を開けてから黒野の背を追った。

足音に気を付けながらしばらく進んで行くと、前方左側に階段があるのが見え、黒野はそれを上って行く。階段と言っても、十段も無い短い物だ。

適度な距離を保ち階段を上れば、街灯の全く無い路地裏のような場所に出る。浩子は一瞬誘い込まれたかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。少し先に今にも消えてしまいそうな蛍光灯の明かりがあり、そこに二階建ての古いアパートがあった。


――成る程、隠れるには良い場所じゃないの。


黒野は迷い無くアパートの立て付け階段を上り、二階の左端にある部屋へと消えた。此処が黒野の拠点らしい。

浩子は外観や、どこかに表記されているであろうアパート名を確認しようと、建物に近づこうとしたが、その足は暗闇と化した路地の奥に潜む物を見つけ、引っ込んでしまった。道の端にぴたりと車が止まっていたのだ。中に人がいるかどうかまでは距離もある上、この暗さでは確認する事が出来ない。

回りには何も無くアパートがあるだけ。こんな場所に止めてあれば怪しく思って当然だ。



「不審な車を発見…、中に人がいるかどうかまでは分からないから黒野のアパートに近付けない。」


『不審な車だァ?黒野の仲間か?』


『…下手に動かない方が良さそうですね。車の特徴は分かりますか?』


「セダン、多分…クラウンの。」


『えっと…ちょっと待って下さい。とりあえず、GPSで浩子さんの居る場所を特定して付近のアパートを調べます。』



車内に人が乗っているとして、黒野が部屋に入って行ったのを追わないと言う事は奴の仲間だとは考えにくい。しかし、先に黒野の部屋に入って待っているとも考えられる為、一概に否定は出来ない。

ただの路上駐車か、または…誰かを監視している、とか。


――監視?……黒野の奴、誰かに目を付けられてるのか?否、逆にあたし達が黒野に目を付けられてる可能性も…。



『アパートの名前は「青葉荘」ですね。』



皐月が素早く調べ、情報を伝える。今回はハトヤマ潜入時のように焦る事も無く、落ち着いた声だ。



『ああ、そう言う事か。』


『何だよ?』


『三日前、青葉荘で空き巣があったみたいなんだ。浩子さん、多分その車は覆面じゃないでしょうか。車種的にも納得かと。』



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