岸栄高校演劇部〆発端



【水川 陽子】(みずかわ ようこ)


クラスの中でも地味ちゃんな彼女は、いつも自分の席でひとり本を読んでいる。


さびしーやつー、とかって馬鹿にする奴いるけどさ。俺はそうは思わない。だって、そうじゃん?


周りの目も気にせず、自分の趣味に熱中というかなんというか。まあ、何を言いたいかってーと。


強いなあ、って。



「俺だったら真っ直ぐエイジんとこ行くぜ。ぼっちだと周りの目ぇ気になるもんなー。

その点、水川って精神的に強いと思う。うん、演劇部には必要な人材だね」


「お前さっきから何ブツブツ言ってんの」



教室の隅で例のターゲット、水川カンサツなう。…いや、ほんと言うと突撃のタイミングが掴めずグダグダやってるだけなんだけどね。



「でも顔はイイ線いってると思うぜ?ハルに負けず劣らずぅ~、ってか」


「いやいや、ハルちゃんの方が断然かわい…………って、ニヤついてんじゃねーよ馬鹿エイジっ!」



ハルちゃんがこの場にいなくってよかったっ……!いたら死ぬわ、恥ずか死ぬ。


ニヤニヤしているエイジに、ごほん、と咳払いをして俺らは水川の席に向かった。


あ、ちなみにハルちゃんは委員会の仕事でっす。後から合流するってさ。この学校の昼休み結構なげぇかんな。時間はジューブン。


水川の他にもこの時間で勧誘するつもりだ。ま、今は目の前の敵~、ってな(ん?敵じゃないって?…気にしなさんな)。



「え、と………水川、話あるんだけど……ちょっといいかな?」


「つーか強制なっ!実は頼みてえことがあんだよねー。ほら、ギン」


「え、……え?」



ああくそ、エイジめ。


出来れば穏便かつスマートにすませようかと思ったのに。一気に喋るから水川も困ってんじゃんか。


ん、しゃーなし。
単刀直入にいくとしますかね。



「演劇部に入ってほしいんだ。……ま、まあ水川がもう他ンとこに入部決めたんなら諦めるけど」


「あ、演劇部なんてあったっけ?みたいな顔してんな。これがあるんだよなあ~。……水川が入ってくれりゃの話だけどな」



含みのある言い方をするエイジ。お前もうちっとスマートにいこうぜ…。

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