岸栄高校演劇部〆発端
水川も困り顔をしているけど、頭で理解しようと必死になってるのが分かる。何この子、ちょうイイ子。
「あ、えと……私なんかでいいの?だって私、地味だし口下手だし…演技力なんてないし……」
「だいじょぶダイジョブ、俺もねえしな。つーかギンだってねえだろ?ハルも台詞噛みそー、ぷぷ」
「お前はさっきから一言余計なんだよ!」
脳天チョップをおみまいし、ひとまずエイジを黙らせる。
水川の方を見れば、僅かに水川の手が震えていた。
「……わ、わた、私っ。ほんと昔から鈍臭いって笑われて……っ。私が演劇部に入っても、いいことなんてないよ……」
声も震えて、悲しそうな顔をする水川は、自分を下卑し過ぎてる。俺だって、たいしたことないのに。
だいじょぶ、水川は強いよ。そうやって水川を笑ってる奴等が弱いんだ。
だいじょぶ、だいじょぶ。
「俺は、水川だから誘ってるんだよ。水川がいてくれたら、すっげ助かる。
な、演劇部入ってさ、一緒にセーシュンしねえ? 俺、水川ともっと仲良くなりてえかも」
「かもかよ」
「うっせ」
苦笑して俺を見てくるエイジの脇腹をこついてやれば、目の前で見ていた水川がクスクス笑っていた。
んで、思わずエイジと顔見合わして水川を凝視。その視線に気づいた水川は慌てて「ご、ごめん」と謝ってきた。
「ふ、二人とも仲良いんだね……。その、微笑ましいっていうのかなあ。ご、ごめんね、笑っちゃって……」
「んにゃ、謝るこたねえよ。ま、俺らがラブラブだってのは認めるけどー?」
「きしょッ! エイジ、きっしょッ!」
「冗談だっつの」
ガチで身震いしたったわボケェ!
ドン引きな視線をエイジに送ってやると、エイジはニヤニヤして「あ、そっか。お前がラブラブしたいのは俺じゃなくてハ……へぶぅッ?!」
冗談でも通じません。