岸栄高校演劇部〆発端
教室に入ると既に午後の授業の準備をしている子や、壁に寄り掛かって友達と駄弁っているクラスメイトがいた。
その奥、私は派手系女子、いわゆるギャルの集団へと近づく。
相手側も気づいたようで、「ハルっちどしたのー?」と化粧直しをしながら尋ねてきた。
ながら語りなんて失礼ね。だけれど今はそうも言ってられない。時は一刻を争うのだ!……って、なんだかギンくんに感化されたのかな。口調が……。いやとりあえず、今すべき事をやらなくては。
「美香子ちゃん、お願いがあるの。ここじゃなんだから、廊下で話しましょ?」
「んー、別にいいけどぉ」
少し苦手なタイプだけれど、いや、ギンくんだって相性の悪い三鐘くんを受け入れてくれた。ならここで私も逃げちゃダメよね!
美香子ちゃんの腕を引いて廊下へと出る。丁度三鐘くんも教室についた頃だったので、御対面というわけね。
笑顔で会釈をし、美香子ちゃんを振り返る。と、なんと美香子ちゃんが三鐘くんを見てポッと頬を染めていたのだ。
こ、これはもしかして……
「美香子ちゃん、三鐘くんのことが好きなのね?」
「ひゃいっ?!」
三鐘くんが教室に入っていったのを見て、そう美香子ちゃんに気持ちを確認する。
はっはーん、アタリってわけね。
にやりーんと瞳を光らせ、私は目の前のターゲットに提案を持ちかける。そう、『勧誘』ではなく『提案』を。
「美香子ちゃん、演劇部に入ろうよ!あ、演劇部はちゃんと存在してるのよ?ふふっ、そして三鐘くんも入部してるんだから。ね、入部してみない?」
「へっ?! さっ、ささささっ三鐘も入部してんのっ?! あっ、うん。べっつに三鐘が入部してっからあたしも入るわけじゃないし?
ただ演劇に興味があるからさ~……。あ、あたし、入部するよ、うん」
「ほんと? ……よかったあ」
笑みをこぼし、美香子ちゃんの手をとる。美香子ちゃんは少し動揺していた。