ワイドショー家族
でも、そんな風に思ったのは遠い昔のことだ。それぞれのプライバシーを侵害しない、等距離での付き合い方は少し寂しくはあったけど、肌にあっていた。なのに今さら――。
「開けなさい。お父さんは金槌なんだ」
ごぼごぼごぼ。水音混じりの声と共に、ドアが叩かれる。
「あけやがれ姉貴」
「くっ、ボンベがッ。あけて、沈んじゃう」
仕方なくドアをあけた。ずぶ濡れの三人は土間にあがって、ぜぇぜぇと肩で息をする。
エリーゼのためにが、空気を読まずに流れだした。玄関マットに転がっていたケータイに出ると、亜紀はがっくりした。
「そうか、全滅か」
無念そうに壁を殴る。
「行儀が悪い」
「うるせぇ、人魚男」
ずぶ濡れでダイニングテーブルについている珍妙な格好の三人に、コーヒーを運ぶ。
テレビではワイドショーがやっている。
『実録、あなたの知らない家族。あなたの家は大丈夫ですか』
という文字が、画面右下におどろおどろしく躍っている。
「とりあえず、お父さん。こうなっちゃったわけ教えて。さっき、ついにこの日が来てしまったかって言ってたけど」
ダメもとで聞いてみる。だってとにかく、この状況から脱したい。どんな方法でもいいから。だってだってみんなが変になった原因は、海上の一軒家になってしまったという、この不可解な現象のせいだ。そう、絶対そうだ。
何度も自分に言いきかせ、椅子に腰かける。
「言うしか、なさそうだな」
父は青く染まった薄い毛髪を撫で、沈痛な面持ちになった。
「実は、お父さんは泳げないけど人魚なんだ。なんで泳げないかっていうとな、魔女と取引して、人間にしてもらう代わりに水泳能力を奪われたからなんだ。それで、海に戻れなくなってしまった。だけど海が迎えに来てくれたらしい。お父さんが帰れば、家は元通りになる」
つかの間、白けた空気が流れた。