ワイドショー家族
「安心して、お父さん。それは、ただの妄想だから。中二病というのよ」
母がフフフッと笑う。
「こうなった原因はね、お母さんにあるの。火の一族の末裔であるお母さんに、水の一族が狙いを定めてきたわけね。やつら、海の下からあたしのことを狙ってるんだわ。ごめんなさい、みんな」
目尻に涙を光らせて語った彼女に、かける言葉が見つからない。
「お母さん、それも妄そ……」
「なんだと?」
父は瞠目して、唇をぶるぶるさせた。
「お前は、火の一族だったのか」
「ええ、まさかっ」
「知らなかった、敵同士だったのか」
二人の間に、雷が落ちたような緊張が走った。妄想同士が融合し、新たなレジェンドが生まれたようである。
つまり結局両親は、家がこんな状態になってしまった理由を知らないのだ。
「親がこんなにバカとは、知らなかったぜ」
妹は、ずびずびずずっとコーヒーをすすり、呆れた顔をする。
「亜紀、こうなった原因に心あたりない?」
「あるわけねーだろ。ったく、ウィンターにお礼参りに行かねぇとなんねってのによ。どこなんでぇ、ここは」
ジュボっとライターをつけ、唇に挟んだ白い棒状の物に火を近づける。
「この親不孝者!」
我に返った父が、妹のくわえていた物を奪いとり、憤怒に眉を歪めた。
「あにすんだよ」
「煙草の害について、学校でやったでしょ」
厳しい口調でいさめる母に、妹は「よく見ろ!」と叫んだ。
「マシュマロだよ」
ぽかんとしている父から奪い返した白い物を、ライターであぶる。甘い、おいしそうな焼きマシュマロの香りが漂ってきた。
「水の一族の前に、亜紀と話さなきゃだった。あんた……その、背中に刺繍してあるオウタム総長っていうのはなんなの」
「暴走族のリーダーっつうこったよ」
「お前、いつオートバイの免許とったんだ」
父が、青筋を立てる。
「とれるわけねーだろ、歳考えろよ」
「無免許なの? 駄目じゃない」