ワイドショー家族
「自転車乗んのに、免許いらねーだろ」
「自転車で暴走してるとでも言うつもりか!」
「ああそうだよ!」
「オウタムってテレビでやってたやつでしょ、騒音被害が出てる。お母さん、人様には迷
惑かけないようにって、口が酸っぱくなるほど言ったはずでしょう」
白熱してきた言いあいに、加奈の脳が痛み始めたとき、呼び鈴が鳴った。
気のせい? それとも……家が元に戻って、誰かが訪ねて来たんだろうか。
舌戦を繰り広げている要注意人物達をおいて、よろよろと立ちあがる。玄関に歩いていき、期待をこめて取手を捻ると、爽やかな青が眼前に広がった。
流れこんでくるしょっぱい匂い。ぬるい湿気を含みつつも、肌触りのいい風。
残念なことに海は相変わらずしっかりと存在していた。そして不気味な者が立っていた。
「こんにちは」
ぽよよんとしたクリアブルーの人物が、陽気に片腕をあげる。
「ワタシ、この町の水神なんですが。アキさん、ご在宅ですね。失礼させて頂きますよ」
人型のソーダゼリーがしゃべった! という口にしたら相手を怒らせてしまいそうな言葉をなんとか飲みこんで、暴れる心臓が逃げださないように胸に手をあてる。
ゼリー製の大男は、ちょこんとお辞儀してあがってくると、迷いなく奥へ進んだ。
「ぇえ!? ちょっ……」
こんな物、家にあげていいんだろうか。ていうかこれは何? なんなの? 夢なの? 現実なの?
世界は不思議で満ちている――。
思考が飛んでいる内に、彼はダイニングルームへ続くドアを開いた。慌ててあとを追う。
「水玉(すいぎよく)を返してもらいにきました」
卓を囲んでいた三人は、腰を浮かせて甲高い悲鳴をあげた。
「なんだこいつは」
「なんじゃてめぇは!」
「加奈、知らない人は家にあげちゃだめって、いつも言ってるでしょう!」
「ワタシ、この町に住む水神です。アキさんに水玉を返してもらいに来ただけです」
恐慌をきたした三人に彼は堂々と言い放った。
「水玉うぅ? なんだそりゃあ」
妹がぽよよんにコーヒーをぶっかける。
「こら、人様になんってことをするんだ!」
父がわめく。