噛みついてもいいですか。
噛みつきたい。
そんな感じで付き合うことになって一月が経った。


あの時、兄貴はやっぱりあたしの気持ちをわかっていたらしく、次の日雄斗さんに電話で付き合うことになったと聞いたらしい兄貴は、その夜ニヤニヤしながら帰ってきた。


それからあたし達は兄貴を介さずに会うようになった。


酒の力は借りずに、食事したり、会ってただひたすら話したり。


そうしているうちに少しずつ雄斗さんのこと知っていくことが嬉しかった。


雄斗さんの笑顔の傍にいれることが嬉しかった。


ただ、一月経っても腑に落ちないことがあった。


雄斗さんが手を出してこない。


手は繋ぐ。ハグもする。ただ、それ以上をしてこない。


やっぱり子供だと思っているからだろうか。


実際そうだけどさ。


三日前に初めて抱き締められたとき、すぐ傍で雄斗さんの心臓の鼓動を聞いただけで死にそうなくらい恥ずかしくなりましたとも。


雄斗さんの手が絡むだけでも、一月経った今でもすごく緊張しますとも。


ええ、まだまだウブですとも。仕方ないじゃんか、そういう経験今までなかったんだもん。


変態なのにウブかよとか雄斗さんの心の呟きが聞こえてきそうですよ、ええ、わかってますって。


あたしがある程度経験があれば11歳年下でも「それ以上」をしていたかなとか思うけど、そんなこと口にできるはずがない。


確かめようもないんだから。


あたしがそういうふうに装うことができればいいけど、何せ最初に手を繋いだ時点であたしが彼氏も初めてだと雄斗さんにばれたから、今更遅い。


「にな、今まで彼氏できたことないよね」


優しげな、でもあたしをからかうような口調で言われた時、この人に嘘は通じないと悟った。


< 12 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop