噛みついてもいいですか。
雄斗さんをチラチラ見ながらチューハイをちびちび飲んでも、会話はほとんどなかった。


雄斗さんは酒の場は必ずスーツを脱いでワイシャツ一枚になる。


ネクタイも緩めてシャツの第二ボタンを開けるのはお決まりらしく、あたしは毎回それを見てにやけてしまいそうになるけど、そんな余裕はなかった。


それよりも会話がないから。そればかりに気を取られてしまう。


初めて会った日のことが脳裏に蘇る。


ああ、やっぱり酔った勢いでなんて安っぽいことするんじゃなかった。


初対面だったのに、ドン引きもいいところだ。


なんとなく気まずい。


「……あの」

「ん?」

「ビール、取ってきましょうか……?」

「あ、いや、いいや。俺もそろそろ終わるし」


再び沈黙。


三人でいると会話が途切れることがないのに、なんで雄斗さんといるとこんなに気まずいんだろう。


兄貴を介して雄斗さんとけっこういるけど、あたしは雄斗さんのことをあまり知らない。


何をやっているんだ、あたしは。


……そうか。もう帰っちゃうのか。


壁にかかっている時計を見ると、まだ十時過ぎ。


まあ、兄貴も寝ちゃったし、あたしといてもつまらないよね……。


コミュニケーション能力が欠如している自分に嫌気が差す。


知りたいことはたくさんある。でも、何を聞けばいいのかわからない。


つまらなくてすみません。何も話せなくてすみません。


何も言えずに心の中でただひたすら謝ることしかできなかった。


「ごめん、ちょっと寝かせて」


その場にあったビールが全部飲み干されて、雄斗さんがその場に寝転がった。


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