噛みついてもいいですか。
「にな、自分が何言ってるかわかってる?」


雄斗さんは冗談だと思っているらしい。


わからない。いや、雄斗さんの立場になればわからなくもないと思う。


11歳も年下の女に告白じみたことを言われても、赤子の言葉を聞いているようにしか思えないだろう。


「……あたし、鎖骨が好きなんです」

「鎖骨?」


いきなり何を言い出すんだ。


雄斗さんは確実に思ったに違いない。


「初めて会った時から……雄斗さんの鎖骨が好きでした」


『好き』


その言葉を口にしたら、なんだか泣きたくなってきた。


鎖骨が好きとかそんなことを言いたいんじゃない。


雄斗さんが好きなのに。それだけを言いたいのに。


あたしは俯いて唇を噛み締めた。この気持ちをうまく伝えられない自分が情けない。


「にな」


声と共に雄斗さんの手があたしの頭の上に置かれた。


「……鎖骨だけ?」


雄斗さんの言葉が終わらないうちに首を横に振る。


「雄斗さんが…………」


それ以上は言葉にならない。喉に詰まる。


『好き』


言葉にならない声が涙となってこぼれ落ちる。


あたしは慌てて目元を拭う。


めんどくさい。自分で思うのだから、雄斗さんはもっとそう思っているに違いない。


なんでこんなに口に出せないんだろう。


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