[完]俺様くんがスキなんです!!
「そんな時社長なんて言ったと思う?」

美紅は挑発的に俺を見る。

「“キミを死なせる訳には行かない”
ってね。
本当に憎いと思った
どうしてあのまま残してくれなかったんだろうって。
だからそれから私は社長のことが
許せなかった。
だからそんな社長の元から
離れて私はあっけなく
電車を見ていると
なぜか運転手がいて……
しかも無傷のまま。
ただ無表情でそこに立って
タバコを吸ってたわ」

運転手は関係ないって
美紅に言ったんだよな……

「そんな運転手が許せなくて
私は運転手を責め続けた。
けど、最終的にね、彼は、彼は……
“僕には関係ないね”って……
嘲笑って私を見下した。
許せないと思った。
関係ない訳ないって……
じゃあ、あなた以外の人が
運転してたら絶対助かったでしょって。
あんたのせいで
翼と愛はこの燃え上がる炎の中に
いるんだって
思いっきり叫んで殺したいくらいだったけど
私はあっさり駆けつけた警察官に
止められた。
そしてそのまま病院に運ばれて、
これからが私の地獄だった」

美紅は悔しそうに唇を噛み締める。

「病院に運ばれて
精密検査が終わったと同時に親が来た。
もちろん精密検査では何も引っかからなかった。
それを伝えるとあいつは私を殴った。
ママは私を見てただ泣いてるだけ。
それであいつはこう言った。
“なんでお前が生きてるんだ”って」

そう教えてくれた目は
どこにも光なんてなかった。

「それから私は何十回も殴られて
顎が折れた。
そして医者が
私を手当てしてくれようとした時
あいつは
“こんな奴手当てする価値なんてない。
このままにしておけ”って。
そしたらママがようやく反論した。
けれどママはあいつに殴られて終わり。
医者もあいつを見て腰を抜かしたのか
私をそのまま放置した。
しかも退院は翌日よ?
最低だと思わない?」

そんな美紅に俺は黙って聞くことしか
出来なかった。

「家に帰るとまた暴行。
食事なんて与えられなかった。
だってママも私のせいで
暴行されてたんだから。
そんなママを見てられなくて、
私はまた死のうと思って
リストカットした。
けれどね、なんで誰も
私を死なせてくれなかったんだろう
ママが私を見つけて通報した。
ママはそんな私を見て
もうあいつと一緒に住めないってわかったのか
離婚して掛け持ちして
夜も寝ないで仕事した。
ママもバカだよね。
私を助けるからそのまま倒れるんだよ」

その後美紅の母さんは
脳死と判断されてドナーになった。

「そしてまたあいつの元に帰らされた。
虐待は前以上に悪化した。
あいつはね、よほど私が嫌いみたいね。
双子っていうのは大事な価値なんだってさ。
一番上は男がよかったんだって。
だから翼と愛が最初に生まれてたら
私なんていらなかったんだって言われた。ふ、バカだよね。
そんな私をずっと育ててきたんだから。
だから私はあんな家出ることにした。
行く場所なんてなかったから
私はしばらくホームレス状態で
街をさまよっていた。
そしたら社長に私だってバレて
そのまま家政婦として働くことになった訳。
その時私はもう死ぬ寸前だった。
でも幸せなことが続く訳ないでしょ?
これが留衣にも言ってないことなんだけどさ」

美紅はそのまま俺を真っ直ぐと見る。

「あいつに襲われかけたんだよ」

そのフレーズに俺は思わず目を開いた。
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